旅館の客単価は、いまだに価格競争の歯止めがかからない。1日300人で満室と仮定した旅館の場合、1日の売り上げが300万円の日もあれば、600万円に達する日もある。単価に直せば1万円平均か2万円平均かとなる。問題は、そのときの接客人員体勢がどうなっているかだ。当然ながら、300万円と600万円ではGOPが全く違う。では、接客態勢はどうか。この点は再三指摘したことだが、大半は「臨機応変に対処している」であって、そうした対処の仕方の根底にGOPへの意識がみえ難い。悪く言えば、旅館の常識に基づく永年の勘のようなものだ。しかも、経営者が判断するよりも、現場を長く務めてきたシフト管理者に、臨機応変の対応が委ねられている。それが、実際にはネックになっていると認識する必要がある(「GOP重視で接客に可変性を」第110回参照)。
前述の仮定を運営システムに当てはめて接客態勢を考える場合、GOPを判断材料にすると600万円ならば50人態勢、300万円なら半分以下の20人態勢などの基本ルールが作れる。その点だけを言えば「料金別運営」となるが、実際に履行するのは難しい。シフトづくりが先行しているために、臨機応変では実態に即した対処ができていないからだ。これは、先行予約をはじめ需要予測を基に、最適なタイミングと価格で適切な顧客層に商品を販売するイールドマネジメント(収益最大化)も関与する事柄だが、ここでは、GOPをベースにした接遇対応として話を進めたい(イールドマネジメントについては稿を改めて述べる)。
単価別の接客体勢の可変では、シフト運営と大きくかかわっているが、その前提としてオールラウンド化のマネジメント確立が不可欠だ。どの部署の誰が、どの時点で何にかかわるのかが明確でなければ、運営体勢を組むことはできない。いわゆるマルチタスクで、誰もが接客に当たれるとしても、所詮はヘルプの域にとどまる。そこに、接客コストとGOPを勘案した場合の大きな課題が潜んでいるといえる。
また、そうした接客体勢は料理提供の方法にも連動している。例えの妥当性はともかく、われわれが外で飲食をする場合に、選択肢は居酒屋や大衆食堂、割烹やコジャレたレストラン、高級な料亭やレストランなど、その時々の懐具合や同伴者、目的などの条件に照らして選択している。これは、客の立場で発想すれば当然のことだ。では提供する側はどうか。居酒屋が料亭並みの料理を出すはずがないし、洗練された接遇もあり得ない。その逆もしかり。どの店でも、自店の採算に沿った料理提供をしている。それを無視して分を過ぎた料理提供や接遇をすれば、行き着くところは見えている。そうした当たり前の発想に立ったとき、旅館の料理提供の仕方にも、おのずと単価に基づいた発想が求められる。
例えば、夕食のバイキング方式と食事処、部屋出しでの接客コストが違うのは、経営者ならば誰でも知っている。また、提供方法によって原価も異なってくる。そうした点にも「旅館の常識」を脱いで、新たな発想で取り組む必要がある。
改めて冒頭の300万円と600万円の日を考えた時、単価とは別に稼働率の問題がある。旅館にとって稼働率は70%が妥当な数字といえる(拙著「赤字が消える、旅館が変わる」観光経済新聞社刊)。ただし、この70%の数字は、自社がほしい単価の客層を前提にしている。単価が下落した現在では、実際のところほしい単価に換算すると40〜45%稼働といった数字になる。旅館の苦しいところは、今日の客室は明日では売れないこと。ほしい単価でなくても選り好みのできない状況に置かれている。
したがって、単価と連動させるサービスと料理提供の可変は、なんとしても手掛けなくてはならない。その決めては、本稿で提唱を続けているGOP重視の経営であり、具体化の第1歩はオールラウンド化によるマネジメントを構築することにほかならない。(つづく)
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