「儲けるための旅館経営」 その110
GOP重視で接客に可変性を

Press release
  2012.1.28観光経済新聞
前回は、臨機応変や役割分担の意味合いを、シフト運営の視点を交えながら考えてみた。この点を実情に照らしながら捉えてみよう。

まず、出迎えの光景を思い描いてほしい。期待を込めて予約した旅館を訪れたところ、3時着の予定が多少早めに着いてしまった。フロントには人影がなく、ロビーも閑散としている。もちろん、出迎えてくれる者もいない。お客にすれば、チェックインを済ませることで安心感を覚え、その後で周辺の散策なり、ゆったりと温泉に浸かりたいと思うのが常だ。その期待がものの見事に裏切られた。ファーストインプレッションは最悪と言っていい。

こうした状況は「いままでの旅館の常識」に近いものだった。理由はさまざまだが、要は旅館側の都合が先行して、お客を迎え入れるオペレーションができていなかった。前回指摘した役割分担での、「役割」と「分担」の意味合いに対する意識が薄いために生じた一例に過ぎない。そうした出迎え態勢の運用をきちんと見直し、新たなシフト運営のオペレーションを構築したことで、お客の評価が一気に高まった旅館が実際にある。

ここまでの話は、極めて概括的なものであり、GOPと直結してイメージするのは難しい。それは、従来のファーストインプレッションが、「おもてなし」という抽象的な概念に包まれてきたからだ。おもてなしの実際の形は、各館各様の工夫が凝らされてきた。それ自体は大切なことであり、そこに館風や個性が生かされてきた。だが、どんな好印象を与えたところで、それをGOPに直結できないのがバブル崩壊で始まった価格破壊、それに続く価格志向に象徴される低単価傾向だ。

極めて乱暴な言い方をすると、価格志向の一方で「いままでの旅館の常識」がそのままお客の側にもこびりついている。そして、旅館もお客も「おもてなし」と「価格」の関係性を曖昧にしたままでいる。ウェブ上に氾濫する価格比較サイトが、それに拍車をかけているともいえよう。実際に「おもてなしの手を抜けば客離れにつながる」と受けとめている経営者が少なくない。徹底したサービスレスで相応の実績を挙げている旅館に対しては、半ば異端視する傾向もあるし、中途半端に真似て窮状をさらに悲惨なものに落し込んだケースもある。

 なぜ、そうした悪循環のループから抜け出せないのか。答えは本稿のテーマである「GOPを重視した経営」への視点が、曇っているとしか言いようがない。換言すれば「GOPを重視したおもてなし」を、お客の動線に沿ったすべてのシーンで作り変えることだ。もちろん、それはシーンごとの「いいとこ取り」でなく、トータルの視点に立脚して整合性のあるものでなければならない。

 現在、単一の旅館の宿泊単価をみても、下は1万円以下から上は3万円超まで多様なケースが混在している。GOP重視の観点に立てば、当然ながら客単価による接客の可変態勢が欠かせない。そして、全体としてどの単価の客層にも満足を提供できる内容でなければならない。

 旅館のグレードによって内容や方式は異なるが、これまでの常識であった呈茶ひとつにしても、そのことは言える。例えば、団体客への接客対応では、客室での呈茶を廃止する。理由は簡単だ。接客係1人で20人の団体客に対応できなければ、GOPは成り立たない。客室数に直せば5部屋ほど対応することになる。1部屋目から順にあいさつへ回ったとしても、5部屋目ではすでに入浴などで外出している。したがって、客室での呈茶は実質的に不可能だ。それを従来通りに行おうとすれば、接客係1人では済まなくなる。といって要員を増やせばGOPは成り立たない。

この相反する要件は、いままでの常識を捨てて新しい発想の下で運営オペレーションを構築することによって解決できる。それは、前段で「お客の評価が一気に高まった旅館が実際にある」と記したとおりだ。もちろん、適切なシフト運営が成否を握っている。(つづく)