厳しい旅館経営で当面の課題は3点ある。@全体的に客数が減少している。その対策をどうするか。A低価格帯の団体を受けるか、あるいはコマ客対応の低価格帯商品の造成をするか。B魅力ある料理をどのように創出するか。
今回は、第1の客数減少を考えてみよう。現在、客室係の定員計画は、例えば、宿泊定員規模500人の旅館ならば、450人ぐらいを回せる人員計画を立てている。ところが、ここ数年を手元のデータに照らすと、定員の500人を達成する日数は、年間で60日に満たないケースもざらにある。結果として、「すでに多くのリストラ(人員削減)をした」と言う話が、日常的に聞かれる。
したがって現状では、500人のフル定員になると客室係の担当部屋数を増やして、とにかく回すことで汲々としている。俗な言い方をすると「捌き」の状況が発生している。これでは細部に手が回らず、人的面の満足度低下を招いている。恒常的な客数低下があるのが歴然としている。
一方、年間で60日を除いた300日の主体は300〜350人台に移った(オフ期の定員半減を考慮)。そうなると、450人ぐらいを回す人員計画でも余剰人員が相当数発生し、実際にリストラも進んでいるが、「これ以上の削減では人的サービスの維持ができない」とも言う。
年間を通した社員の状況を捉えると、60〜80日のオン期に対して、それに匹敵するオフ期がある。オン期には捌きに等しい大車輪で稼いでも、オフ期にはタイムレコーダを押しにくるだけのような状況で、オン期に稼いだ分を吐き出している。この状況を解消しなければ、儲けは生まれない。
さて、従来の定員500人で実勢定員450人対応の要員計画は、定員350人想定の単純比計算だと実勢定員は315人。それに対応した要員計画で、350人あるいはフル定員の500人に対応が可能なのだろうか。多くの経営者は、論外としてそこまでの要員削減は考えられないわけだ。
そこで発想の転換が必要になる。筆者がかねて提案しているオールラウンド制の採用だ。オールラウンドとは、以前の「帳場」の感覚に戻すことだ。フロント、経理、客室、売店など現状のタテ割りの弊害を廃止することだ。オールラウンドン制に移行して、3〜4%のコストダウンを図った旅館は多い。
オールラウンドの基本はシフト運営で、これには3段階のレベルがある。レベル1は、一定の時間を一定の要件で他の部署に移す。第2段階は、瞬間的に他部署の運営を行う。第3段階は、シフト管理責任者の指示でその部署の運営にあたる。
教条的な言い回しになってしまったが、レベル1は、客室係の業務をセッティング当番と宴会係に分離するとともに、フロントもカウンター要員とバック要員(例えば会計係)を区分することから始まる。実際の運用では、宴会係が午後6時まで玄関口で迎客にあたる。6時を過ぎるとフロントのピークは越えて遅着客の応対程度の業務になるため、レベル1のシフトオペレーションを発動する。これは、ラウンジや売店にもあてはまる。例えば、カウンター要員を客室要員化し、遅着客の迎客にはバックフロント要員があたる。また、そうした時間帯になると客室係は、すでに始まった宴会などに対応しているので、迎客や案内を行うことができない。そこでレベル2のシフトオペレーションを発動する。遅着客の客室案内は、予約や経理部署のスタッフが、その瞬間だけ客室係として客室への案内を行う。
最後にレベル3のシフト運営は、手の空いたスタッフを活用ではなく、シフト管理責任者の采配で、必要とする部署の要員化(言葉を換えれば定員化)して運営にあてることだ。その意味で「応援」とは根本的な発想の違いがある。これまで30人必要だった客室係を20人に減員して、残りの10人は他部署からの要員でまかなう。手が空いた者の応援では、不安定要素が多すぎて、こうしたシフト管理運営はできない。予約や経理係が決められた勤務時間で退社する従来型業務形態を変更も必要だ。
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