「儲けるための旅館経営」 その107
1GM5M体制の確立も肝要

Press release
  2011.12.10観光経済新聞

シフト運営を考えるにあたって、ハセップの「12手順・7原則」を示し、12手順のうち7原則を除く5つの手順である「前提条件」の確認が重要だと述べた(第105回)。同時に前提条件の前段として経営者の意思表示(コミットメント)と、チームリーダーを含む全員のコンセンサスづくりが肝心だとしている点を紹介したのを踏まえて、「シフト運営を有効に機能させるための社内変革は、経営者の意識に負うところ大だ」と指摘した(第106回)。

今回は、前提条件の前段を別の角度から考えたい。まず、社内機構の観点が挙げられる。筆者は、これまで作業レベルを「地方大会・県大会・全国大会」の3カテゴリーに例えてきた。日常の現場作業を地方大会とすれば、これはワーカー(一般社員やパート)の仕事に相当する。これに対してマネージャー(管理職)は、県大会や一部の全国大会の管理業務を主として、ときには地方大会の作業も補完する。そして、ゼネラルマネージャー(総支配人)は、将来の企業スキームを含む全国大会に対応して、全体を掌握する。これが旅館の「1GM+5M体制」だ。

 1GM+5M体制とは、ゼネラルマネージャーの下に5人のマネージャーを配置する形であり、この5人は営業、接待、館内運営、厨房、経理の各部署を掌握する。こうした管理機構を必要とする最大の理由は、旅館が人海戦術を不可欠とした業種だからだ。とりわけ最前線の各作業現場は、前述してきた前提条件によって日々変動する客数に応じて、必要な作業時間と対応する人数は割り出せる。例えば、備品準備に必要な時間がお客50人だと2時間、100人に増えれば4時間と計算でき、一定時間内に処理するには頭数を何人揃えるかが割り出せる。業務別の「作業積算」という手法だ。

ただし、接客のように頭数だけでなく作業者個人の力量(経験による熟度)と不可分な分野もある。料金単価が低額化する一方で、高額単価のお客も混在するのが旅館の実態であり、若干の語弊もあるが、低単価客には通常レベル、高単価客には熟練レベルなどのサジ加減も必要となる。そうした采配には、業務内容の難易度によって、対応可能者を特定する仕組み(人事考課制度)が不可欠だ。

こうした実態を極論すると、いい料理をつくる板前、いい接待をする客室係、いいマネジメントを行う管理者など専門の領分がある一方、「いい食器洗い」などはあり得ない。食器洗は、汚れを確実に洗い落して清潔を維持するのと、破損を「させない・見落とさない」などの最低条項を満たせる人間ならば十分に要は足せる。このほか一般的にみた作業難易度は、裏方作業はじめ一定の経験、いわば数日程度の訓練を受ければ一応は対応できるのが実態といえる。

そこで、1GM+5M体制とシフト運営の関連が問われる。シフト運営をする上で「シフト管理」とは、それぞれの作業が円滑に遂行されることが第1義だ。同時に、作業の品質が問われる。時間内に済んだとしても、品質にムラがあれば、結果として円滑に遂行されたとする評価に値しない。そうなると、シフト管理が行われていないことになる。そこで、シフト管理の根底を突き詰めていくと、作業に対する基本的な教育ができていないことに行き着く。

所属長である5Mには、3つの仕事がある。第1はシフトを含む現業管理で、適正配置で「現場を回す」という仕事。第2は、その部署の品質管理。第3は人材(力量)の育成と人事管理だ。シフトを組み立てるには、5Mの3つの仕事を第3から逆に辿ってみる発想も欠かせない。そして、そうした管理者には「認知・判断・行動」の3要素が求められる。その中の第1要件である「認知力」に欠けた管理者は、判断も行動もできない。俗な言い方をすれば、幹部は部下を選べても、部下は幹部を選べないのが当たり前で、認知力に欠けた管理者を選任することが悲劇の始まりになっているケースが少なくない。シフト運営には、社内の仕組みとして適正な1GM+5M体制が欠かせないことを指摘しておきたい。(つづく)