「儲けるための旅館経営」 その106
シフト運営の成否は経営者に

Press release
  2011.12.3観光経済新聞

前回、作業名を明確することは、仕事の「区切り点」を明らかにすることだと指摘した。また、複数の作業を1人の人間がこなす場合、作業の対象が変わるたびに、暗黙のアイドルタイムが正当化されるなど、効率面でのマイナスも言及した。

そこで、客室係の作業を時系列と内容に分解して、一連の流れをシミュレーションしてみよう。客室係の原則は、お客の動きに合わせて対応することにある。だが、お客はどのような動きをするかは分からない。例えば、接客係が20人在籍している旅館で、通常期の出迎えを考えてみる。チェックインを3時に決めていたとしても、お客が3時前に到着することは容易に推測できる。そのために、2時半から8人が待機する形をとる。その後は、3時から10人、3時半から12人、ピークの4時には15人、5時から8人、5時半から5人、チェックインの大半が済んだ6時からは3人といった配置が、基本フォーメーションといえる。もちろん、各旅館の特性から時間帯分布は異なる場合もあるが、肝心なことはお客の動きのピークに合わせた人員配置をすることに尽きる。

そして、このフォーメーションは「表方」としての客室係を捉えたものだ。ところが現状は、前々回の稿でも指摘したように表方だけでなく「裏方」の仕事、あるいは3種に分けた3区分の仕事内容が混在している。時間帯による合間を表方以外の仕事に当てて、一見すると合理的な運用のようにも思えるが、実は作業効率を落とす要因(コスト増)にもなっている。

再三指摘をしていることだが裏方の作業は、作業の量によって必用人数(人件費)を割り出せる。そうした作業を前提条件の発想に基づいて項目別に整理すると、備品の準備から会場設営、飲材補充そして下膳など20種ぐらいになる。それらの各作業について積算を徹底することが不可避だ。

また、「お客の動きは分からない」ことから、それへの対応も念頭に置かなければならない。例えば、一般的な旅館では、1日にフリー客が10組以上訪れることは稀なこと。それでも、10件あって20人のお客が想定外で増えたとしよう。それ自体は好ましいことで、一般客と同等の接遇をしなければならない。その場合、客室係は通常1520人のお客を1人で対応する。仮に20人の客室係がいて、その中の誰か1人がそうしたフリー客に対応する「当番」だとすれば、残りの19人(通常期の休暇を含む)は本来の仕事に専念できる。

つまり、シフト運営を勤務時間割り程度の認識で捉えていると、決められた時間に決められた仕事に就き、集中力に欠けたダラダラ作業を決められた時間まで続ける「旧来の作業遂行イメージ」から脱却できない。コスト効率の改善もなされない。そこで「区切り点」を明確にして集中力をアップさせ、クオリティの高いCSの実現と、中途半端なアイドルタイムを休憩に切り替える労働環境でESも高める。前提条件を明確にした上で、月間や週間の予約状況に照らしてシフトと当番制を組み合わせることで、本来のシフト運営が有効に機能する。そうした変革の実現は、経営者の意識に負うところ大ということになる。(つづく)