「儲けるための旅館経営」 その105
個々の作業の概念規定が重要

Press release
  2011.11.26観光経済新聞

シフト運営を考えるにあたって、発想の原点を改めて考えてみたい。そのヒントとして、食品の安全を確保する管理手法であるハセップ(HACCP)に注目してみよう。

ハセップのシステムには「前提条件」という発想がある。システムとして機能する7原則の前に、5つの手順が明示されており、それらを総称して「12手順・7原則」と呼ばれている。この5つの手順が前提条件であり、ハード的な整備、それらの器具を取り扱う衛生的な手法(作業手順)を規定している。また、手順としては記されていないが、前段として食品の安全に取り組む経営者の意思表示(コミットメント)、併せてチームリーダーを含む全員のコンセンサスづくりが、前提条件の前の必須条件ともされている(ハセップについては厨房システムでも重要な意味をもつが、それらの詳細は別の機会に紹介したい)。

本題に入ろう。旅館の構造改革においても、前提条件の発想を応用した整備が必要だ。例えば、館内のさまざまな作業について、個々の作業名を明確にすることが前提条件の第一歩といえる。これに対しては「当たり前だ」「分かっている」との答えが返ってくるだろう。だが、果たして実態もその通りだろうか。

作業名を明確にすることは、作業の内容を明らかにすることであり、いわば作業の概念規定の意味をもっている。筆者が実態に対して疑念を抱く理由は、旅館の作業が一連の流れに沿って組み立てられていること。一定の客動線に合わせた複数の作業は、あたかもボーダレスに連鎖している。したがって、一連の流れ全体を1つの作業とみなす捉え方が強いからだ。

そこに、1つ1つの作業名を明確にする概念規定の必用性がある。例えば、接客係の業務として一括されている作業内容は、セッティング、出迎え、案内、さたにお客の要望に合わせた情報の管理伝達ほかさまざまだ。それらは、すでに述べてきたように、直接的な接客を「表方」とすれば、セッティングなど間接的にお客をもてなす「裏方」、さらに情報伝達など「事務方」の3類に区分できる。

なぜ、そうした区分にこだわるのか。理由は、3類の作業を1人の人間がこなそうとすると、作業の対象(内容)が変わるたびに切り替えが必要だからだ。そこに、暗黙のアイドルタイムを正当化する素地が生まれる。アイドルタイムは、実質的には休憩であるにもかかわらず、あたかも作業の一環のように捉えられている。

例えば、1日8時間就労といった形をとっているが、実際にはアイドルタイムが2時間以上は含まれている。社員の側に「2時間以上の休憩をとっている」との認識は生まれにくいし、会社の側にも8時間の規定労働時間と捉える傾向が否定できない。これは、極論というより一般的なものだ。

しかも、お客の動きは旅館側で想定している通りにはいかない。想定外の要望が出てくるのも希ではない以上、それへの対応も準備しておかなければクレームにつながる。

こうした条件や状況を流れのままに任せてしまうと、運営改善の糸口は見えなくなってしまう。結果として従前の体質を改善できずに引きずってしまい、現状から脱却できないわけだ。そこで、冒頭の前提条件に目を向ける必要がある。

極めてシンプルに捉えれば、表方の仕事では、作業手順の徹底とそれに準拠した臨機応変さが求められるが、裏方の仕事は作業手順さえ明確に規定されていれば、いわゆる「積算」で効率(コスト)を弾きだせる。事務方の仕事も同様に、各人の技量(能力)を把握しておけば、ある程度の目途はつけられる。いわば、作業名を明確することは仕事の「区切り点」を明らかにすることにもつながる。

こうした前提条件の整備によって、仕事の内容と性格が明らかになるために、連鎖する一連の流れを分断せずに、複数の人員を合理的に組み合わせて動かす仕組みづくりが可能となる。それがシフト運営の基本だといえる。(つづく)