「儲けるための旅館経営」 その104
旅館の業務は相互の関連から

Press release
  2011.11.19観光経済新聞

前回、お客は旅館で想定している形の通りには動いてくれないと述べた。ゆえに、効率を重視したシフト運営を理論的な組み立てで示しても、「そうは言っても現実面に対応できない」という経験則に照らした短絡が生じる。それらは、旧弊とも言える旅館の常識を改めようとしない姿勢、あるいは変えられないと思い込んでいるタテ割りの仕組みがもたらしているものにほかならない。

前回の例えに挙げた「出迎えの人数が足りない」と言う接客の場合を考えてみよう。仮に、出迎えに要する時間は、1組20分程度と計算できる。これまでも述べたように、事務部門の業務は一定の計画性のもとで運用できることから、8時間の業務時間帯の中で、6時間で済ませられる体系を組めば、2時間分は出迎えに出ることができる。1組20分ならば6組の出迎えが可能だ。

あるいは、裏方の仕事である備品セットは、決して高度なノウハウが不可欠な作業といえない。一定の作業ルールを身につければ、大多数の人間が対応できる。そうであれば、作業の当番制を取り入れることで、必要な人員数は確保できる。接客係が「出迎えに出る余裕がない」とする理由は、この仕組み(裏方の当番制)で成り立たなくなる。

こうした発想は、作業が平準化できるものと、そうではないものの仕分けを意味している。

ここまでは、いわば作業のハード的な仕組みの話だ。確かに、これらの仕組みを構築できたとしても、前出の「そうは言っても……」の短絡に対する答えには十分と言えない部分がある。当日になってからの客室変更、宿泊者数の変更をはじめ、まさに想定外の事態が日常茶飯事に生じるのが旅館の実態だ。そこで、作業のこうした仕組みを機能させるためには、想定外の変化に対応可能な「情報の通し」をどうするかが課題になる。これを解決しなければ意味がない。

その「情報の通し」を果たす専門の人間を配置しておけば、問題は解決する。これも、自身の役割をきちんと認識でき、ルールに準じて適切に処理できる人間であれば、1人に固定する必要はない。当番制でもやっていける。

原則は、旅館の業務は前回も指摘したようにチェーンでつながっていることであり、それへの認識が不可欠だ。シフトの組み立てもに同様のことが言える。その際に、作業の性格を平準化できるか否かを個々に精査し直し、それを基にシフト運営の基本構図を組み立てる必要がある。

前出の裏方や情報通しの当番制もシフト発想の一環であり、それによって細分化された各作業の担当従事者は、それぞれに与えられた業務に専念できる。その専念は、作業の効率化で極めて大きな意味をもっている。同時に、クオリティの安定にもつながる。ひいてはCSの向上も貢献する。

このような観点から「人の動かし」を変えただけでコストを大幅に削減できた事例は、筆者の関与したケースでは枚挙にいとまがない。そこでは「情報の通し」が重要な意味をもっていた。結果としてシフト運営は、休暇取得の容易化でESも向上している。肝心なことは、チェーンであって、真似のしやすい一部だけを取り入れることは、チェーン全体を壊すものだと知る必要がある。(つづく)