「儲けるための旅館経営」 その103
シフト運営の基本発想の確認

Press release
  2011.11.12観光経済新聞
ある旅館では、客室係1人が5室を担当している。5室のお客の到着にタイムラグがあればいいが、同じ時間帯に訪れると、案内だけで手いっぱいになって呈茶どころではない。担当する最後の客室を訪れたときには、入浴などで不在になることも珍しくない。そうした接遇のバラツキに、どう対処するのか。GOPの観点に立てば、CSを前提にしながら料金帯と提供するサービスの可変性に着目し、適正なバランスで運営システムを確立することが第一義だ。

肝心なことは、高額帯でも低額帯でも「他館とは異なる感動」をもって迎える態勢を工夫し、それを確実に実践することにある。

前回に続いてシフト運営の基本を考えてみよう。旅館の業務には、事務、接客、裏方の3つがある。これまで「シフト運営」とされてきたものは、3つの中で接客要員個々の業務時間の「配分」と捉えられることが少なくなかった。俗に言う早番、遅番の出勤時間割りだ。一歩進んでこれらの3つの業務部署を「マルチタスク」との位置付けの下で、それをシフト運営にあてはめてきた。

問題は「マルチタスク」における「タスク」の捉え方と、タスク遂行の「ルールづけ」を整合させてこなかったことにある。例えば、テレビを見ながら新聞は読めないと言われる。中には「できる」と言う人間もいるが、2つ(マルチ)の異なる内容(タスク)を同時に理解することは不可能に近い。同様に異なる業務を混在させながらの同時進行も難しい。野球の試合で、グラウンドを整備しながらプレーできないのと同じだ。だが、野球には3アウトで攻守がチェンジするルールが確立されている。そのインターバルを活用した補修的なグラウンド整備の光景は、試合中にしばしば目にする。それをシフト運営に直結させる発想はコジつけの感もあるが、ルールづけをシフトと捉えれば納得できる部分もある。「誰が、どの業務にあたるのか」のルールづけがそれにあたる。

旅館にあてはめれば、客室係が裏方の備品セット業務をしている途中で、到着したお客の出迎えに出る場合がそれだ。この場合、セット業務を中途でやめて出迎え後に、再び前の作業を続けることになる。効率だけを考えればムダは否めない。テレビの連続ドラマの冒頭やCMの直後に前回場面のリピートが入るのと同じで、中断後には前の反復がなければ続行が難しい。これは人間の常と言っていい。

ここで考えねばならないのは、セット業務で手を離せないから出迎えに出られない、その分をフロントで対応することだ。だが、セット業務の現場を見ると少なからずアイドルタイムの形跡が見てとれる。そうしたアイドルタイムは、全体を一連の業務とみなしたときに、スムースに運ぶ緩衝のような役割と考えられ、いわば、暗黙の了解のように当然のこととされてきた感が否めない。

余談だが、自動車の省エネ発想では、地球温暖化防止などの大義のほかに、維持費(燃費=運営コスト)の軽減といったユーザーのメリットが普及の推進力となっている。そのための新技術として停車中のアイドリングストップが実用化した。再始動には余分なエネルギーが必要とされてきたが、車を動かすための全体的なシステムを見直すことで、それが不要となった。

本題に戻ろう。旅館業務でのアイドルタイムは、前後の作業の進捗状況から生じていることは明白だ。そうした事態が生じる要因の多くは、いわゆる「タテ割り組織」に起因する。チェーンのように、それぞれが連鎖している視点の欠乏と言っていい。前述した3つの旅館業務区分の中で接客業務をみると、お客が旅館の想定している通りに動いてくれれば問題ないが、実際には想定外とも言える行動パターンをとることもある。そこにクレーム発生の余地もある。一方、事務や裏方の仕事は、既定の流れに対して想定外の事態が生じるケースは稀だ。この辺りの認識を適切に整理すると、シフト運営を組み立てるあり方の一端が見えてくる。(つづく)