これまで、GOPを中心に「儲かる」でなく、積極的に「儲ける」との視点で、旅館の運営変更をさまざまな角度から言及してきた。改めて運営変更によって「儲ける」とは何かを捉えてみたい。だが、この問いに即座に答えるのは難しい。その旅館の運営が、どの状態にあるかによって異なるからだ。俗な言い方をすれば、「ここまでしか、できていない」と判断されれば、次の段階へ僅かにステップアップするだけで「ここまで、できた」と効果を実感できる。だが、その段階も1ランク上を基準にすれば、再び「ここまでしか、できていない」と言うことになる。上昇志向を続ける限り「できていない」と「できた」がエンドレスに続くと考えていい。
ただし、エンドレスに強いられる努力は、やがて惰性へと変化し投げやりになってしまう。それを持続するためには、適切なマイルストーン(一里塚)が欠かせない。筆者の趣味の1つである登山に例えれば、5合目の標識を目にすることで、自分がどの辺りにいるかが分かる。「半分登った」と認識できれば、その後に続く「胸突き8丁」と言うような最後の急斜面でも、それを登り切れば頂上が待っていると、新たな力が漲ってくる。それがマイルストーンの効果だ。だが、旅館運営の道程に頂上はない。人間が1つの満足を得て、それで満足が終わらないのと同じだ。頂上で一息入れるのは必要だが、そこにとどまってしまえば、より高い頂きを制覇した登山者の味わう満足は得られない。
若干横道に逸れるが、マイルストーンを考えてみよう。極めて平易に捉えるならば、マイルストーンは理論的な尺度であり誰にとっても同じ長さを示すが、その距離は人によって長くも短くも感じられる。それは、人間のさまざまな能力や気質によって左右されるからだ。筆者が唱えている運営変更は、理論的な尺度であり、どの旅館にも共通する。さらに、現状はどの旅館も到達していない頂きであっても、理論的には実行可能な世界として想定できる。ただし、マイルストーンと同様に、経営者のさまざまな能力や気質によって、到達する期間には長短が生じる。したがって、その旅館の運営状態に合わせて細かなマイルストーンを考える必要がある。
ひるがえって現状を見ると、「なんとしてもGOPを上げたいが、現実はニッチもサッチも行かない」「客単価はどんどん下がっている」などの状況が業界の大部分を覆っている。そうした状況は、多分に外部的な社会情勢に左右されたものだ。一方、内部的な発想での「常識」が、外的要因と共振して状況をさらに悪化させている。いわば内的な常識は、右肩上がりの中で恒常化してきた「慣れ合い」の場合が少なくない。そこにもメスを入れる必要がある。
例えば、原価率の削減も課題の1つだ。現状の原価は、外部で加工した工賃が上乗せされている。これを社内加工に変更することで、2〜3%程度の原価率削減は、容易にできる。いわゆる「手作り化」だ。厨房作業としては、従来よりも手数が増えることになるが、客単価1万円以下の比率が高まってきた旅館では、コスト削減を目指す上で避けて通れない。原価率を下げることも、料理運営コストの見直しの一環にほかならない。同時に、そこには知恵と工夫の芽生える余地が多分に潜んでいる。厨房が「アンタッチャブル」だった時代は過去のものだ。
こうした取り組みは、前述した細かなマイルストーンのほんの1例でしかない。「できていない」とする旅館にとって、それは大きな効果を発揮する。また、料理運営コストを見直す時に、最初に目につくのが接客にあたる人件費だ。シフト運営やオールラウンド化による運営変更が必要となる。さらに、接客人件費がどれだけかかっているのかは、シフト管理によって接客運営の実態が把握できれば、その日の室料が弾き出される。GOPの一端が日々に明らかになっていく。したがって、まず「人の動かし」を変えることが、起死回生策の始まりといえる。(つづく)
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