「儲けるための旅館経営」 その10
「超オールラウンド」の仕掛け

Press release
  2009.10.10/観光経済新聞

 低単価の客層を対象にしても儲ける方法はある。例えば、コストの中で大きなウェートを占める接客係の人件費にしても、1人あたりの担当人数を変えることで、すでに述べてきた料飲率は大幅に変わる(右図参照=消費単価9000円程度の参考数値)。また、何組かの団体やグループ対応でも、会食のスタート時間を少しずつずらすことで、接待係の運用は変わってくる。宴会の開始時には相応の人数を確保しておかなければならないが、実際の開始後は、その接待係数が絶対に必要と言うわけではない。

乱暴な例えだが、割烹に毛の生えた程度の居酒屋では、オーダーを受けた接客係が「はい」と返事をしてから、実際のオーダーを受けにくるまでに多少のタイムラグがある。それを叱責する客は、よほど短気か変わり者であって、常識の範囲ならば互いに暗黙の許容を認めている。そこには、料金(安さ)と接遇状態のバランス感覚が相互に働いている。

つまり低単価層には、それに見合った運営方法があっていいわけだ。接客係が宴会場や食事会場内を絶えず徘徊し、間髪を入れずにオーダーを受け、空いた食器を回収するなどは、バブル期の高単価対応の手法といっていいだろう。前回、発想の転換が必要だと述べた背景には、そうした対応を旅館の伝統と錯覚している向きも否定できないからだ。

同じような観点で館内を見回してみると、対応すべきお客さまがいないのに無意味なアイドルタイムをもてあましている光景が、しばしば目につく。例えば、チェックインのピークを過ぎたフロント、宴会や食事時間の館内売店要員や大浴場の整理係……など数え上げればきりがない。そうした余剰人員の対応策として筆者は「オールラウンド制」を提唱してきた。ただし、オールラウンドの基本的な発想は、他部署への「ヘルプ」ではない。ヘルプのニュアンスには「どうせ手伝いだから」という責任感不在がつきまとうが、オールラウンドには回された部署の一員としての責任が伴う。

 そうしたオールラウンドの発想を一歩前進させ、各部署の要員が他部署にも対応できる教育と運営方法を構築することも、従来とは異なる発想の転換だ。経理要員があら方の仕事を終えたあとは、事務服を和服に着替えてフロントや接客に回ってもいいし、経理経験のある接客係が、帳簿転記などの経理の仕事に回ってもいい。そして、これは従業員個々の労働強化ではない。その分の技能給的な方策を講じれば、働く側にもメリットとやり甲斐が生じる。法定労働時間の制約も、変形労働時間制を活用すれば問題は解決できる。

 かつて、パートで可能な業務はパート化でコスト削減を提唱してきた。それは、高単価高消費の時代に、もっと「儲ける」ための一策であったが、低単価低消費の時代になると、それだけではコスト削減の効果が薄くなってくる。パート労働力はこれからも必要だが、オールラウンド化である程度の肩代わりは可能なのだ。

極めて異例なケースだが、100数室規模の旅館で、全館オールラウンド制を敷くことによって、外注費を限りなく「ゼロ」に近づけた話がある。結果として1億万円近くのコストダウンにも成功したようだ。要は、儲けられる旅館づくりに向けた新しいを発想してほしい。