「求める理想は実現する」 その111
第一歩は不動産ハンドリング

Press release
  2008.09.20/観光経済新聞

 GOP経営では、どれだけの室料が残っているのか、といった現状分析を認知することが第一歩だ。そして、不動産のハンドリングにおいてシーズナリティをどう加味するかが問われる。だが、この業界は長年の経験則から分かっていると考えがちだ。例えば、年間に5億円のGOPを弾き出さなければならない旅館があったとする。
 
第1段階として、部屋タイプ別にどれだけのGOPを出すかを考える。そこにシーズナリティを加味する。自力でも平均売価で確実に埋められる日が、年間で120日ぐらいあるだろう。残りの240日をどうするかだ。ところが、その論拠が経験則で曖昧なのだ。
 例えば、平均売価が15,000円だとして、そこの10,000円の客で5,000人ほどオファーがあったとする。それを受けるか否かの判断に悩むところだ。つまり、15,000円ならばGOPを確保できるが、10,000円だとGOPがどれがけ目減りするかを考えなくてはならない。
そのときに不可欠なのが原価意識だ。GOPを根底に据えた旅館版ユニフォームシステムでの新しい「料理原価」は、@材料費A厨房人件費B食器洗浄C料理輸送D接客人件費――などの諸コストを包含したものと定義できる。つまり、料理にかかわるものをすべて「料理原価」とするわけであり、材料費のみを料理原価としてきた従来の発想をとは大きく異なる。これは、料理全体でみたオペレーションコストとして捉えることにほかならない。旅館のオペレーションは、不動産業と料飲業を明確に区分するとともに、それらをリンクさせて全体としてのGOPを確立させるオペレーションの多重構造になっている。複数のレイヤー(階層)から成り立つものを、「平面ガエル(蛙)」のような単レイヤーで発想してきたところに、根本的な無理があった。
 ちなみに、新しい料理原価をファーストフードのような飲食店にあてはめてみると、ガラスではなく使い捨ての紙コップを使う理由が明確にみえてくる。消費単価が600円ぐらいだと、食器を洗う人件費と消耗品の紙コップを比較した場合、当然ながら紙コップにならざるを得ない。洗浄の必要な食器を使おうとすれば、単価を引き上げなければならないからだ。また、上記の原価率を一般的な料飲業として捉えると、概ね60%だと言える。その60%の内訳を「材料費+サービス=60%」の関係からみると、3つ☆レストランは「30%+30%」、居酒屋は「50%+10%」といった構図になっている。

 こうした装置産業の宿命は、単価が高ければ絶対収入は高くなるということであり、当然のこととして誰もが理解している。高単価を確保しようとしたとき、スペースに対して定員数が少なければ、空間的なゆとり感とそれに見合ったサービス体制の充実で高品質を訴求し、逆に定員が多ければ、ハード面の意匠やソフト面の演出などで高級感を訴求する。そうした場合に、どちらの設定でも利用客数が想定レベルに達していれば問題ないが、下回ると採算が合わなくなる。つまり、単価を算定する基準は、キャパシティ(平米数、席数=旅館なら収容規模)とそれに対する来店客数、そして設定単価によってすべてが決まる。平たく言えば、前述した飲食業の場合、平均消費単価が4,000円の居酒屋では、1,000人来店すれば400万円、平均消費単価が15,000円の3つ☆ででは1,000人ならば1,500万円になる。粗利の違いが歴然であり、当然ながら店構えから違ってくる。
 話を旅館に戻そう。まず、現状を分析することが急務だといえる。客単価が低くなって来たのにもかかわらず、例えば従前の厨房体制ならば板前に余剰(ムダ)が発生している。いわゆる「格式」と呼ばれるものに拘泥すると、こうしたムダが随所に発生しているわけだ。もちろん、格式の必要性を全面的に否定するわけではないが、現状(消費単価)にみあったオペレーションが不在だと、格式の維持どころか、経営そのものが維持できないと知るべきだ。これは、ゆゆしき大事でもある。

(つづく)

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