旅館の経営は、一般的な経営の概念に当てはまらないケースがいくつもある。例えば、コアコンピタンス(中核能力)を考えてみよう。ホテルならば宿泊、料亭や割烹は飲食、スーパー銭湯は入浴など、それぞれに明確なコア(中核)があって、関連する便利機能として若干の付加機能をプラスしている。これに対して旅館業のコアは「宿泊」であることに間違いないが、現実をみると「泊める」だけでなく、温泉(大浴場、露天風呂)や食事が極めて大きな誘客要因になっているし、さらにいえば「1泊2食」の販売形態が大勢を占めている。宿泊機能を機軸にしたCS(顧客満足)が事業展開での第一義のはずだが、温泉や食事にも注力することからコアの曖昧さが拭えない。よくいえば、「宿泊と温泉と食事」の三位一体が旅館業といえるが、それら個々が独立して事業のコアコンピタンスに成り得るほど奥深い内容であることを考えると、旅館業がいかに高度な総合産業であるか、改めて頭の下がる思いがする。同時に、そこが経営を難しくさせる要因にもなっている。
本稿のテーマである「儲けるための旅館経営」を考える上では、こうした旅館業のコアの曖昧さが「どこで儲けて、どこで損をしているか」をみえにくくしている。端的な1例だが、接客係(仲居)の業務は、コアである宿泊(客室関連の業務)よりも、食事提供にかかわるサービス業務のウエートがはるかに大きい。それを「1泊2食」だから当然とみなしていては、人件費の管理が難しくなる一方だ。結果、従来方式の「人件費」として一括で扱うことになり、経費削減に迫られれば「何人リストラすればいいのか」といった議論に短絡してしまう。
前置きが長くなってしまったが、儲けて事業を継続させるためには、コアとして三位一体化している各業務を改めて見直し、それぞれの業務内容に合わせた区分の下でマネジメントする必要がある。ただし、三位一体といっても、業務の内実を考慮すると、「室料」と「料飲サービス料(料飲率)」の2本立てにした方が経営状態の概要を端的に把握する上では、都合がいいようだ。
例えば人件費については、室料にも料飲サービス料にも計上しているが、それぞれ別の人間がいるわけではなく、前述したように接客係がどちらの業務にも関与しているためだ。それを、あえて区分したマネジメント方法が、これからのシビアな計数管理では必要となってくる。仮に、客室係の1人1日当たりの人件費が1万2000円(各種保険など会社負担分を含む)だったとした場合、室料にかかわる出迎え、案内や呈茶、見送りなどと、食事の際の接客業務が、それぞれ幾らになるかを明確にみることで、ミクロなコストダウンが可能になる。同様に、どの業務でどれだけ費やされているかが把握できれば、単純なリストラでない人件費削減が行える。
なぜ、そうしたミクロ解析が必要かといえば、旅館の評価が価格に色濃く反映されているからだ。現実問題として話題になるのが「顧客の評価アップ、単価アップ、GOPアップが三すくみ状態にある」ということ。つまり、評価(アンケートなど)の高い施設では、消費単価も相応に高いが、そのためにはハードとソフトのクオリティも高い必要がある。そのクオリティを維持するにはコストがかかり、結果としてGOPが抑えられる。GOPが低ければ投資もままならず「三すくみ」の状態になって、新たな施設展開も販売戦略も打ち出せなくなってしまう。
儲けるためには単価アップが最大のカンフル剤だが、それが望めない状況下では、「室料」と「料飲サービス料」を区分して「料飲率」のコントロールによるGOP確保が急務だといえる。
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