前回のケーススタディでは、サンプル旅館の10年前と現在の価格帯の推移が明確に表れていた(下表=再掲)。とりわけ、10年前には1%ほどで大勢に影響のなかった1万円に満たない価格帯が、現在は団体全体の15%に達していることに触れた。社会現象を捉えるムーブメントも、2〜3%台の人々が行っている状況では大勢に影響ないが、10%を超えるあたりからブームとして無視できなくなる。経営数値にも同様のことが言える。
さて、10%を超えた価格帯が、いわゆる高額帯ならば、提供するサービスの質的向上でいかようにも対応できる。しかし、低額帯だとそうはいかない。前回示した儲けの数式に照らしてみれば一目瞭然だ。
例えば、現在では団体の中心になっている1万円から2万円未満の価格帯を考えてみよう。サンプル旅館の場合、10年前と現在の客数で極端な差は出ていないことから、計算を単純化するために、利用客数を現在の年間10万人ベースで比較すると、以下の数字が表れる。
個間対団体の比率が、前回示したように3対7の場合、団体は7万人だ。この7万人うち1万〜2万円未満は、10年前だと89%の6万2000人だったが、現在は80%の5万6000人に減っている。これに対して、10年前はわずか1%(700人)に過ぎなかった1万円未満の価格帯が、現在は15%1万500人になっている。
前段で10年前と現在の客数で極端な差は出ていないとした理由は、実は1万円未満の増加にあったことがわかる。それが、何を意味すらかが大きな問題になっている。1つは前回も示した
高級(高額)旅館のイメージの蚕食だ。利用客の間からは「評判(かつてのイメージ)とは大違いだ」と言った露骨な評価さへ一部に出始めている。もっとも、それらの多くは謝恩名目などの低価格帯を利用した客の評価であって、従前の価格帯を利用している客層からは出ていない。したがって、その辺りの評価をどう受けとめるかは、経営者の判断に委ねられる。
もう1つの大きな問題は、GOPが蚕食されているということ。これが、本稿のテーマである「どこで儲けて、どこで損をしているか」につながっている。前出の「評判とは違う」との評価は、当然ながら価格を下げれば諸コストも下げなければならず、それが評価につながった結果だ。しかし、旅館側では謝恩価格と通常価格のイメージ差を極力小さくするために、「最大の努力を払っている」との認識がある。永年にわたって培ってきたノレンの維持といってもいい。
旅館側のこの努力は、不可欠である一方、方法を間違えるとすべてが水泡に帰す危うさも秘めている。結論からいえば、そうした販売手法によって「損をしている」との認識の仕方にブレがある。昔から「損をして得をとれ」などの商訓もあるが、ここでは当てはまらない。総じていえるのは、分母(売上総額)の低減に関心の多くが置かれていること。その結果、損をしている実態が漠然としている。言い換えれば、「どこで損をしているか」が把握できていないわけだ。これでは、損をしない方法が見いだせない。
これら2つの問題点は、いわば表裏の関係にもある。永年の努力がクオリティの高さとして評価される一方で、価格志向の強まる中でそれを維持しようとすれば、GOPは際限なく目減りし、GOPを確保すればクオリティにしわ寄せがくる。抜け出し難いジレンマに陥るわけだが、「どこで儲けて、どこで損をしているか」がわかれば、新たな方策も講じられる。その第一歩は、旅館の業務実態に則した「室料」と「料飲サービス料(料飲率)」を区分する発想にある。
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