「儲けるため」あらゆる手段を前回は「どの業務」に「幾らのコスト」が費やされてきたが、これまでは不明瞭なケースが多かった点を指摘した。これは、視点を換えると本稿のテーマでもある「どこで儲けて、どこで損をしているか」に通じる。そして、それを洗い出すための方法論として旅館の業務実態に照らした「室料」と「料飲サービス料」を区分する発想が、すべての出発点になると述べた。
これまでのコスト削減では、効果の出やすい人員の削減が多く行われてきた。それは、同時にさまざまな弊害が伴うことも、経営者ならば誰でも知っていた。だが、それを承知の上で「せざるを得なかった」と言う実態も否定できない。例えば、売上げが数%下がった程度ならば、小さな「ムリ・ムラ・ムダ」を洗い出して、それらを改善することも可能だが、2ケタ台のマイナスになると、そうした手法だけでは対処が難しくなってくる。結果として大きなコストボリュームを占める人件費に手をつけざるを得なくなる。その構図が従来のリストラパターンだった。
だが、それも限界にきている。バブル経済が崩壊したあと現在までの流れを追ってみると、推移の軌跡がみてとれる(図下)。バブル崩壊で売上が一気にダウンすると、従来の運営システムや発想のままでは、いわゆる高コスト体質によってGOPが急激にダウンした。そしてリストラや諸経費の削減で、GOPの低下に一定の歯止めのかかった状況が続いていた。ただし、デフレ傾向が続く中で、従来の単価よりも1ランク下の価格帯をメインに据え換える価格施策が、多くの旅館でとられ始めた。そうした状況の中では、価格を下げるとともに、運営コストを下げる手法を打ちだした旅館(例えば部屋食からバイキング形式への移行)では、売上に対するGOPの比率をかろうじて維持しているが、売上分母の低下(単価の低下→総売上の低下)から、GOP額面の目減りを避けるまでの効果には至っていない。
さらに、昨年のリーマンショックによる世界的な不況の拡大と、弱毒性とは言われながらも旅行需要に悪影響を与えた新型インフルエンザの流行など、GOPの低下要因は多々あっても向上要因の見あたらない状況が続いている。
そうした状況に対して旅館経営者の1人は、「打つべき手は、すべて打ってきた」と諦め顔でぼやいた。だが、果たしてそうなのか。そこで、新たな視点として「室料」と「料飲サービス料」による区分けとコスト解析の1策を提案している。詳細は次回以降に細術するが、室料としての@宿泊関連人件費A販管費B建物減価償却費CGOP――の総和を厳密に算定し、それに対して料飲サービス費(料飲率)を弾き出すことで、新たな運営システムを構築することが可能だと考えられる。
肝心なことは、企業を経営する以上、「儲けること」を忘れないことが絶対条件だ。同時に、人件費や運営費など大きな項目を対象に年間何千万円を一気に削減する従来型の経営戦略ではなく、1人分の客単価の10円単位あるいは100円単位と言った小さなコストコントロールの成果を積算して、年間で総額何千万円かを弾き出せる運営施策が必要だ。仮に年間で10万人の利用がある旅館で、1人あたり300円のコスト削減ができれば、それだけで3000万円のコストダウン効果がある。
そのためには、「室料」と「料飲サービス料」を区分し、個々の作業コストを把握しなければならない。極論だが、作業の質を落とさず1作業10円を削減できれば、30の作業項目で300円だ。このことを改めて考える必要がある。
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