マーケットの変化には、当然ながら対処しなくてはならない。とりわけ、「単価の2極化時代」を迎えて、旅館はどのような経営体制で臨むべきなのか。今号からは、「2極化時代のGOP経営」として新しい局面から本稿を進めたい。
標題に掲げた「単価の2極化」について、すでに述べてきたことを簡略に整理しておこう。単価の2極化とは、価格が「安いか・高いか」が購入決定時の大きなファクターになってきたということだ。かつて、日本人の選択志向は、例えば「松・竹・梅」の3択だと「竹」が多数派だった。ところが、現在の2極化では「竹」が消えたのだ。マーケットの実勢から類推すると、安値先行で「7対3」ぐらいの2極化だとみている。
一方、これまでの旅館経営は、マーケットの志向(ニーズ)を優先させながら経営リソースを配置してきた感がある。消費者の志向が多様化して、「十人十色が百人百色になった」などと譬えられ、ほとんど無批判に「ごもっとも」と迎合してきた。結果として投資やサービスの過剰に目を瞑らざるをえない状況を招いてきた。これは、原価意識の欠如以外の何物でもない。送客元からの要請や圧力、マーケットの価格志向への対応など、さまざまな理由を挙げつらったところで認識の甘さは決して拭えるものではない。利益をあげて存続できてこそ企業の経営だという、もっとも原点から捉えなおすターニングポイントに、いま立たされている。
さて、話を進める前に原価意識の乏しかった従前の状況を手短に総括しよう。そこでの状況はひと言でいえば「LCM(最小公倍数)的」だったと思う。そこで、頭の隅でカビの被った最大公約数と最小公倍数という言葉を思い出してほしい。1と10の共通の約数(最大公約数)は「1」であり、最小の倍数(最小公倍数)は「10」だ。これと同様に1と100ならば「1」と「100」になる。色数が増えれば最小公倍数は、当然ながら増えていく。極めて乱暴な言い方だが、最小公倍数をニーズ、最大公約数をシーズ(自館で提供できる能力=マネジメント)だとすれば、2極化時代への対応の一端が見えてくるはずだ。
ただし、マーケットのニーズを無視すると言う意味ではない。単価の2極化に合わせたマネジメントを確立しようと言うことに尽きる。換言すれば、高額や低額に見合った原価意識に立脚して適正なGOPを確保することで、高額・定額の客をともに満足させて経営の健全化を図ろうというものだ。
例えば、原価意識を明確にしたうえでの対応として、食事の提供形態をバイキング方式にするマネジメントがある。バイキング方式が料理原価の低減につながるという認識は、ある程度一般化しており、改めて説明の必要はないだろう。ただし、従前の原価意識のままでは、GOPと連動させたマネジメントに発展させるのが難しい。原価については、後段(次回の稿)で旅館版レベニューマネジメントによる新しい発想を提示するが、ここではとりあえず料理コストの削減といった意味で捉えていいだろう。しかし、バイキング方式には、イメージ先行の発想の下では馴染みにくいという旅館が多い。原価の低減は分かっていても、レストランや部屋食に固執する旅館が現実には圧倒的に多い。しかし、そうした旅館ではGOPがとれずに、結果は歴然としている。
視点を換えてみよう。こうしたバイキング方式は、安い客層へのみの施策ではないということだ。筆者がしばしば例示する話を再掲してみよう。「かつて、北海道地区がパック旅行の洗礼を受けたときに、バイキング方式が主流となった。それを経たことで、食事処や部屋食などでもGOPの出せる客層の取り込が可能なまでに再構築が進んだ。一定のGOPを確保し続ければ、それが基礎体力となって次の施策へ打って出ることを可能とする」と言う話だ。極論すれば、本州の旅館は北海道の事例を再吟味して学ぶべきだということになろう。そのときに、GOPや原価意識が重要テーマとなる。
|