「求める理想は実現する」 その11
システム開発の背景(上)

Press release
  2006.06.24/観光経済新聞

 「旅館の事務部門で多くの社員が働いているのは、なぜだ」
その疑問が「総合経理システム」の開発を思い立たせた。構造改革によるローコストオペレーションを提唱する筆者としては、その疑問は当然だった。1例をあげるならば、経理部門で計数処理をする売掛金をみると、社員でなければ処理できない部分と、誰でもできる単なる入力・計数処理の部分が、実際には混在している。このことを経営者に指摘すると「あたりまえ」との答えが返ってくるが、その後の話が続かない。「あたりまえ」だから疑問符が湧かないのかもしれないが、それで済ませている現実にこそ問題が潜んでいる。もう1つの問題は、仕事(組織)がタテ割りになっていることだ。例えば、買掛や未払いは最終的に全社で一本化されるとしても、初期的な会計処理は発生した各部署で個別に行っている。ということは、各部署の〈事務屋〉が、それぞれ同じような入力やファイリングなどの仕事をしていることになる。
業務内容を度外視した十把一絡げの組織形成や二重三重に手をかけている経理・事務処理の仕組みが許されるのは、最大限に妥協したとしても「余裕のある企業」といった条件が不可欠だ。ただし、ローコストオペレーションの視点では、余裕があったとしてもあり得ないことだが……。まして、現実問題として旅館の実情に照らせば、これらの状況は許されないはずだ。そうした状況を構造改革の手法に照らしながら、「総合経理システム」の生まれた背景を、今回と次回に分けて述べてみたい。1回目は「人の動き」にスポットをあててみよう。
まず、経理部に対するオーソドックスな捉え方は、経理部長に任せておけば経理部門の役割は果たされるといったもの。ところが、そうした仕組みだと、例えば年商10〜15億円規模の旅館での管理コストは、2000万円から2500万円ほどかかっている。これは、あくまでも一般的な数字だが、労働分配率からいえばすでに限界点に達した危うい状況ともいえる。
そうした状況をみたとき、例えば売掛金の会計処理としてクーポンの取立てや連絡などの業務は、実質作業時間的にいえば1時間もかからないはずだ。これは、買掛や未払い処理も同様のことがいえる。
旅館の売上については改めていうまでもなく、かつての右肩上がり時代のピークに比べて3〜4割は減少している。しかし、経理などの管理部門コストの削減は、売上減少に対応していない現実がある。そこで、オペレーションの仕組みを全国大会・地方大会・県大会といった各レベルに分解し、それを再構築することで「経理部長1+パート複数」の図式ができあがる。つまり、業務レベル(内容)と作業者(管理職・オペレータ)のスキルを整合させることだ。
さらにいうならば、各部署の事務屋が同じような作業をしている現実に対して、新たに「共用オペレータ」の発想が生まれなければならない。タテ割り組織の排除といってもいい。
若干の飛躍をするが、1つの例がある。シビアな経営体制を構築した某旅館では、経理部門の人間が売店業務を兼務している。そこには、2つの理由が見てとれる。1つは全社的な観点に立ったとき、経理だけではなく館内の多様な部門を体験させる人材育成を目指したものだ。もう1つは、経理業務における作業量の問題もある。売店を兼務したからといって、本来の業務に支障がでるわけではないという現実的な対応だ。
こうした展開では、経営者の経理に対するシビアな認識が働いている。旧態然とした「経理=会計」の既成概念にとらわれず、「経理=経営管理」といった経営者における新たな認識の下での実践といってもいい。また、予約販売管理システムの項で指摘したように、管理者がオペレータ個々の作業内容やスキルを把握し、専門特化や他の業務を与える多機能性を判断し、適切にコントロールするオペレーション環境の構築も不可欠だ。いずれにしても、経営者によって経理に対するオペレーションの認識の違いが大きく、それが「勝ち組・負け組」の分水嶺になっているともいえよう。

(つづく)