「求める理想は実現する」その109
「定性」と「定量」を再考する(下)
Press release
  2008.09.06/観光経済新聞

 前回は、定性情報によって傾向を把握し、定量情報で裏付けすることに対して「それだけなのか」と提起した。また、定性情報と定量情報を「立体的に組み合わせて対処の方法を見出す」とも述べた。当然と言えることを改めて記したのには、それなりの理由がある。話を進める前に定性と定量について、もう一度整理をしておこう。
 定性情報は、言葉を基本とすることから傾向の把握には向いているが、その半面ではイメージ先行で結果を見誤る場合も少なからずある。これに対して数字を基本にした定量情報は、客観性が高く、他のデータと比較・検討をし易いが、逆に、数字にとらわれすぎて背後にある傾向を見落とす場合もある。したがって「立体的な組み合わせ」が肝心だ。本コラムの3回前(106回)の稿で、CS・ES・コストの3点セットを「平面ガエル(蛙)」ではなく「立体ガエル」の発想で捉える必要性を述べたが、定性・定量情報への対処でも、それが必要だといえる。
極論とも言える例えだが、次のようなケースを考えてみよう。前年の宿泊客総数は、ある時期だけ数字が突出しているものの、年間を通した実績は前々年と大きな隔たりがなかったとしよう。したがって、最終的な数字を見る限り「前年並み」と判断できる――と結論づけたとき、そこに疑問符を抱く経営者が少なからずいるはずだ。なぜなら「ある時期の突出」が他の時期のマイナスを補っているためであり、それが「前年並み」の正体だからだ。私流の譬えで言えば、「日銭・月銭はマイナスで、宝くじが当たって穴埋めをしているような状況」にほかならない。
 したがって、この前年をベースに今年の計画を立てても、実勢と齟齬を来すのは目に見えている。それが、客観的といえる定量情報の落とし穴の1つでもあるのだ。ゆえに、定量情報の価値を低くみる気など毛頭ない。定性情報と立体的に組み合わせることで、確固とした判断の根源になるからだ。

 一方、定性情報から前年の「ある時期の突出」を捉えてみると、例えば近隣の地域がテレビなどのマスコミで話題になった時期と、若干のタイムラグの後で「ある時期の突出」が出現していた場合をはじめ多様な要因が考えられる。特筆するほどの話題性でないために見落としていたケースもあれば、定性情報への関心の低さから斟酌しなかった場合もあるだろう。定性情報とは、判断する側の受けとめ方によって、価値がまったく変わってくる性格も内包しており、その意味では厄介者でもある。
 さて、定性と定量をテーマにした背景には、前回記したように「同定(定性)→定量」といった疫学のプロセスが、旅館業にも当てはまると感じたからだ。
結論から言えば、現時点での「勝ち組」は、同定を経て定量のプロセスを確実に実行している旅館だ。例えば、GOP重視の経営だ。これに対して定性に固執する旅館が圧倒的に多い。前号で定性を「お客の求める内容(成分=同定・定性)」と譬えたが、この「内容」は「ニーズ」に言い換えることもできる。「ニーズに応える」と言えば響きのいいセリフだが、かつて「百人百色」と言われたように、多種多様な個々のニーズへの対応は難しい。そこで、文化や情緒性などの定性に走った。だが、それは大いなる錯覚であったことを、定性から定量のプロセスへいち早く移行した勝ち組の現実が示している。現在はそのターニングポイントの最終期なのかもしれない。この機を逃してはならない。
 蛇足ではあるが、一般にムーブメントは、2〜3%の時には目立たないが、10%を超すと一気に顕在化すると言われている。だが、10%は1割でしかない。ニーズの先取りや差別化と称してその1割に翻弄されて過剰な投資を続けてきたのがバブル時代ではなかったのか。その轍を踏んではならない。
定性・定量の情報は、データでしかない。これらを立体的に捉えた最終的な判断は、経営者に委ねられている。経営者の着眼点と洞察力が問われる。

(つづく)

  質問箱へ