「求める理想は実現する」その105
人件費構図の再構築が不可欠
Press release
  2008.08.02/観光経済新聞

 旅館はターニングポイントに差しかかっている。今回から業界でいま起きている現象を考えてみよう。そこには、コスト意識を踏まえた「人件費構図の再構築」と「客単価の2局化」といったマーケット対応などがクリアすべき課題として横たわっている。このうち、人件費構造の再構築から話を進めたい。
端的に言えることとして、勝ち組の営業の仕方は、稼働率を重視した販売戦略を展開していることだ。想定している稼働率よりも1割ぐらいの不足が見込まれた場合、その分を埋めるために通常の団体価格よりも1割下げて叩き売りをしてきた。
さて、現状をみると自館に必要な単価の客が半分ぐらいしかない。団体客の減少が大きな要因であることは、多くの経営者が実感している。かつて全体の6割ぐらいを占めていた団体が、昨今では3割程度に落ち込んでいる。小間客は最近のサイバー展開で1割ぐらいの増加もあるが、大勢として大きな変動はない。そうなると、1万2000円が自館にとって理想的だった団体の必要量が確保できないために、1万1000円の団体をとることになる。さらに1万円に下げてくると、当然ながら総売上も下がってくる。ただし、そうした展開の可能な旅館には、まだ余力といったものが残っている。単価を下げながらも経営を続けることができるわけだ。ところが、最初が9000円や8000円だと、切り売りをして下げることすら、ままにはならない。
そうした状況から自館の求める単価と売上が維持できなくなると、経営者は焦りだす。司令官ともいえる立場の人間に焦りの色が出ると、部下も浮足立ってくる。あるメジャーな温泉地のナンバー2の旅館の場合、単価が下がって経営が苦しくなってきたために、やむを得ず人件費を削る方策にでた。この「人件費削減」がターニングポイントになる。人件費削減については、これまでも再三指摘してきたように、下げれば接遇体制にしわ寄せがきて、結果として評価が下がる。評価が下がれば単価も下がるといった悪循環に陥る。
余談だが、将棋の駒を積み重ねて1つずつ取っていく積み将棋という遊びがある。最初は周辺部で影響のない駒を取っていくが、やがて核心部へと迫り、その中の1つを取った瞬間に全部が崩れてしまう。これで、ゲームオーバーだ。現実問題にあてはめてみると、バブル期には「付加価値を高める」という大義名分の下で、現在の倍近い従業員をかかえていた。この「付加価値」の内容がどうであったかを検証する必要がある。詳細は別の機会に譲るが、経営環境が厳しくなって影響の少ない部分、積み将棋でいえば周辺部に当たる人件費部分を削減しても、体勢に影響は出なかった。これは、当時の付加価値が内包していた意味合いを類推する1つの材料にもなるだろ。
ところが、昨今の現状をみると、人件費削減は限界にきている。これ以上の削減は、ゲームオーバーの危うさにつながっている。そこで「どうするのか」が問題となる。結論からいえば、人件費の構図を変革する以外にない。現在、勝ち組ともいえる元気な旅館は、その変革をなしえてきたところだといえる。
例えば、接客15人、売店3人、フロント5人、ラウンジ2人といった構図があったとしよう。これに対して、接待から3人、売店1人、フロント1といった具合に減員すると、2割の人員削減になる。これが単純に人間を間引きする人件費の削減策だ。また、接客対パブリックの一般的な人員配置をみると、規模によっても異なるが、大型ならば接客に対して4掛け、仮に接客が100人ならばパブリックは40人、小型だと6掛けぐらいの人員構成なる。いずれにしても、各部門から人員を間引くには限界もあるし、それを無視してさらに削減すると一気に瓦解してしまう。
その瓦解を防ぎながら人件費を削減する手立てが、人件費構図の再構築ということになる。例えば「接客と売店を担当できる人間」「フロントと接客のできる人間」といった人間を育てることにほかならない。

(つづく)

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