これまで、マネージャーの資質を検証してきたが、ここでゼネラリストについての一考を試みたい。
モチベーションや賃金の稿で話題にした人事の仕組みを思い起こしてほしい。というのも、大手企業などでは関係する部署での職務経験のない人間が、上級の管理職に就く例がしばしばある。そうした人事が、なぜ可能なのかということだ。結論からいえば、そうした人事でマネージャーに就く人間は、職務経験ではなく「何が問題で、何をすべきか」を見抜く能力を備えているためだ。それがマネージメントでは欠かせない。
また、すでに述べたマネージャーの3つの役割の中で、第1番に挙げた「現場の運営責任」では、いわゆるワーカーの力量不足を補完する責務があるとした。ワーカーの力量が不足している場合は、マネージャーがリカバリーするわけだが、そのマネージャーについても「人材不足で」と言うような旅館では、経営トップが自ら調理部長、接客部長、内務部長……などの責務を負って采配を振るうことになる。こうした笑うに笑えない現実が、実際には少なからずある。
さて、このようなマネージャーの役割だけを捉えると、職務経験のない人間はマネージャーの資質に欠けるように思われがちだが、実はまったく逆の発想がここにある。禅問答のような話だが、実際の現場に話を落とし込んでみよう。
例えば、接客の目的は何かといえば、お客さまを喜ばせることに他ならない。そのことが理解できて、さらに現場を見渡して「何が問題で、何をすべきか」が判断できれば、仮に総務畑ばかりを歩んできた人間であってもマネージャーは務まることになる。
なぜ、務まるのか。答えは簡単で、接客の専門部長や調理のできる料理長を部下に置けばいいだけのことだ。従来のマネージャーは専門職種の延長線上で考えられてきたが、これから求められるマネージャー像は、原価管理と労務管理のスペシャリストでなければならない、と言うことだ。また、笑うに笑えない話とした経営トップのマネージャー兼務についても、裏返せば経営トップは絶えず原価管理と労務管理に腐心しているわけであり、マネージメントの頂点に立っている。したがって、職務経験を越えた視座から可能だということになる。その意味で経営トップは、ゼネラリストと言っていいだろう。
ゼネラリストとは、スペシャリストと対局の立場にある人間を意味している。つまり、専門分野に特化せずに働いている人間だ。こうした立場の人間は、企業の中でさまざまな仕事をこなすわけであり、タテ割りではなく横断的に仕事を捉えることができる。自己のキャリア形成には格好の立場といってもいい。
その一方で、誰にでもできるという職務でもない。他の分野と協力関係を構築する力をはじめどの業務に対しても関心をもって取り組めるなどの資質が求められる。この点が自分の仕事のみに特化した発想のスペシャリストと大きく異なる。
前述した大手企業の人事などは、こうしたゼネラリストの発想があって可能となる。
そこで、ゼネラリストをどのように育成するかを考えなければならない。現実的な対応としては能力があると認められる人間を、多機能で起用することだ。そうした使い方の1つとして、各部署の不足部分をリカバリーする職務が挙げられる。職務経験にとらわれない発想で、新たな仕組みや手法の生まれる可能性も期待できる。また、多様な職務をこなすことで、マネージャー自身の能力が、さらに高まる効果もある。
そうした起用の構図は、10年20年といった長いスパンになるかも知れないが、それによってマネージャーの力量が高まるのも、まぎれもない事実といえる。要は、人材の育成は一朝一夕にできるものではない。企業内にそれを可能とする仕組みがなければならないし、それをつくり上げるのがオーナーの力量でもあり、真骨頂といえそうだ。
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