前回はマネージメントとモチベーションや賃金の関わりを話題にしたが、今回は「仕事とは」という点を考えたい。
企業に就職したあとには、3つのパターンがあると考えられる。第1は自身や家族が生活の糧を得るのを目的にしたサラリーマン第2が仕事をとおして企業や社会への貢献を目指すビジネスマン、第3が将来の起業に向けた研鑽を積むための就業だ。このうち、一般社員(ワーカー)は、いわゆるサラリーマンでも特段の問題はない。だが、管理者(マネージャー)になった時点でビジネスマンになる必要がある。また、後継者は起業ではないが現場経験を通して将来の経営を学ぶ上で、3つ目のスタンスが求められよう。
そうしたビジネスマンの発想を育てる手法としては、現業の業務をさせながらマネージャーのスキルを身につけさせる仕組みが必要だ。
マネージャーとして旅館の現業業務をみると、1年の中で特別営業日である100日の繁忙日は陣頭指揮で終日追われるだろうが、残りの200余日の陣頭指揮は1日の中の数時間で片がつくはずだ。その時間に自分のマネージメントについて考えなければならない。経営者は、そのためのスキームを与えることが肝心だ。
ところが現状は、管理者とは「どうあるべきか」や、利益がでていないときに「どうすべきか」といった観念論や「べき論」に終始している。スキームとは、「枠組みをもった計画」であり、何らかの目的を達成するために「将来どのように行動するのか」といった計画に対して、一定の枠組みをもたせることと言える。つまり、経営トップが目先の「べき論」ばかりだと、マネージャーは育成できないことになる。
余談だが、何のトレーニングもせずに経営者になると、待っているのは悲劇でしかない。ある旅館で次のような話があった。その旅館の50代になる後継者は、若い時代に遊び呆けた結果、旅館が左前の状態になっているにもかかわらず、相変わらず自分の遊びにしか関心がない。これでは跡を継がせるわけにいかず、老境に入ったオーナーが経営を続けているわけだが、その責任はスキームをしっかりと与えなかったオーナー自身にあると言える。同様のことがマネージャーを目指す幹部候補にも言える。
トレーニングのパターンを社内に構築している企業とそうでない企業の間には、歴然とした格差がある。したがってオーナーは、そうした環境づくりが不可欠と言える。具体的に、自館の実状を反映させた人事考課制度をつくることだ。ワーカーについては、仕事が正確にできることや頑張り度合などのファクターが重要な要求事項になる。そして、マネージャーには、与えられた課題に対して自分で「何ができるのか」を明確にできる資質の育成が求められる。
私は「頭で理解できていない人間は喋れない、喋れない人間は書けない」といった話をしばしばする。例えば、事業の改善計画を立てるときなどを想定してみると分り易い。意見を求めたときに黙っている人間を、どのように判断するかという問題でもある。
ところが、この判断が難しい。というのも、どんなに高い山でも深い海でも、測ろうとすれば計ることはできる。しかし、人の心は計ることができないからだ。つまり、返答をせずに黙っていることは、改善計画そのもの必要性を理解できていないから喋れないのか、やる気がないから喋らないのかが判然としない。昔から「沈黙は金なり」というが、例えとしての是非は別にして、それが該当するのは官公庁であって、民間の企業では通用しない。発言して「なんぼ」の世界だ。
いずれにしても経営者は、何らかの形で社員の力量を測定しなければならない。キーワードは、PDCAだ。Pのプランは、本人が喋ること。Dのドゥは、本人が行動すること。そして、C(チェック)をしたあとで、A(アクション)で問題点を是正する。この一連のサイクルが有効だといえる。
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