「求める理想は実現する」その101
現場を「回すだけ」では不十分
Press release
  2008.06.28/観光経済新聞

 前回は旅館のマネージャー(管理職)に求められる役割として@現場の管理者としての運営責任A人材の育成B品質の維持と発展――という3点を指摘した。そこで今回から、マネージャー像の細部を検証してみよう。
 1番目の運営責任とは、言うまでもなく現場での「業務遂行」を適正に行うことだ。それぞれの部署には固有の業務があり、例えば接客や販売ならば、お客さまの目の前で行う仕事で満足をしてもらうことであり、厨房などバックヤードの仕事ならば、調理の技量ほかそれぞれの部署で必要な作業を遂行する能力を身につけていれば、当面の仕事に差し障りはない。ただし、これは一般の作業者(ワーカー)の話でああって、マネージャーレベルの話ではない。
 いずれにしても現場での業務は、ワーカーの力量が問われる。その力量によって運営品質が大きく左右されるからだ。したがって、マネージャーは、担当者の力量が不足していれば、それを補完するなどして「現場を回す」ことになる。
 そこで、2番目の人材育成が欠かせない。ワーカーの力量の不足は、マネージャーが教育・育成の必要性を十分に認識しているか否かに関連する。そして3番目の品質維持と向上は、言い換えれば人材育成を踏まえた現場のインフラ整備でもある。インフラが十分でなければ運営品質が保てないということにつながる。
 各部署のマネージャーは、この3点に絶えず眼を向けていなければならない。そして、それぞれの部署は日々の努力(業務遂行)のほかに、次年度の計画をはじめ中長期の目標を定めて業務を遂行する。そうした中では「量の妥協はしても質の妥協はしない」とする発想が根底に求められる。それが部署長に求められる資質だ。また、正しい着眼・認知・思考といった力がないと、正しい判断が下せないことになる。

 余談ではあるが、このワーカー段階は、学校での教育段階に擬えることもできる。例えば高校1年生の時に3年生で学ぶ微分積分の問題をみると、果たして自分に解けるのだろうかと思うのが普通だ。だが、学校のカリキュラムどおりに学んでいくと、やがて理解して解けるようになる マネージャー(管理職)には、そのカリキュラムを自ら作り出す能力が求められる。
 したがって、マネージャーの力量が、その部署の品質グレードを決めることになる。例えの是非はともかくとして、マネージャーの力量がカローラなら大衆車のグレード、セルシオなら高級車のグレードになる。そして、トータルとして旅館がセルシオを志向していれば、カローラのグレードが全体のバランスを崩すことになってしまう。
 では、マネージャーに必要な3点を、どうやって身につけさせるかが問題となる。一般的な企業をみると、ある程度の年齢になった中間管理職には、従前とは異なる部署・仕事を与える。企業の側からみれば、年収にふさわしい仕事内容を与えると言ってもいい。与えられた社員の側がそれをこなすには、入社以降の経験だけで対処できないことが多い。そこで自分に課せなければならないのが、発想の転換であり、何よりも自分自身を変革することだ。
 しばしば耳にするセリフがある。「性格は変えられない」というものだ。確かに、もって生まれた個人の性格は簡単に変えられるものではない。だが、企業は個人の性格にとらわれて動くものではない。例えば、以前にも書いた「確信犯」のような性格もある。分かっていても自分では行わない性格だ。これを個人の「性格だから」と言って容認する企業はないはずだ。そうした人間は、性格を変えられないならば切り捨てられる運命にある。逆に、切り捨てられない企業に発展はない。
 俗に言う「人材不足」の原因は、そうしたところにも潜んでいる。切り捨てるべきマネージャーを切り捨てられず、結果として容認しているような場合に「人材に恵まれなくて……」とういセリフになる。そこに矛盾がある。

(つづく)

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