理想の経営には、理想を現実の形に落とし込めるツールが不可欠だが、ツールをイメージするのは思いのほか難しい。例えば、構造改革での配膳システムにしても、食中毒防止の3原則(菌をつけない・殺す・増やさない)のうち、除菌や殺菌はイメージしやすいが、増殖の実態はイメージできない。ところが、食中毒事故につながる本当の恐ろしさは、見えない増殖にある。その心配さえなければ、つくり置きができる。そうなれば、直前にバタバタと調理したり盛付けたりせずに済むし、あるいは人件費削減効果のある昼間パートに仕事を振り分けるなどの運営変更もできる。
配膳システムでは、冷蔵庫や温蔵庫を作業動線の中に組込み、そこから結果をイメージできるように提案してきた。端的な一例として、平たい透明コンテナの中に必要な食器類をセットし、その食器に盛付けることで料理の積み替えなどの手間を省き、さらに専用冷蔵庫で保管することで食中毒防止対策も加味するなど、多重のメリットを引き出した。単なるコンテナの変更ではなく、そこに〈コロンブスの卵〉がある。おそらく、理想の経営イメージとはそうしたものだろう。
さて、そうしたツールの1つとして、予約販売管理を考えてみたい。システムとしての紹介は次回以降で詳細を述べるが、1回目として電話予約にかかわる現状を捉えてみよう。
仮に、電話受付に数人のオペレーターを配置している場合、一般的な形だと机の上に電話があり、着信音を聞いて受話器を手にする。その作業は、いわば無味乾燥な条件反射的な動作ともいえる。電話受付時の好感度アップを考えるならば、こうした当たり前の作業環境を見直すことが第一歩といえる。
理想的な形としては、作業環境の面では各人の机を間仕切りで区分けし、受話器を持たなくてもすむヘッドセット(マイクと組になったヘッドフォン)を装着して待機する。間仕切りには自分好みの風景写真を貼ってもいいし、要は予約電話を受けた時の第一声で、好感度が与えられるように気持ちを常に整えておける環境をつくる。また、団体と個人の比率に応じて、最初の電話を受ける担当を決めておく。これは、相手先の電話番号を事前登録することで、振り分け受信が可能だ。そうしたことによって、着信音が1回で受けられるように錬度を高めていくことも大切だ。これらの作業環境と対応は、最も基本的なことがらといえる。
回線数が増えれば、当然ながらオペレーターの人数も増える。そこで、形として理想ではあっても、それだけでは人件費効率をはじめ問題もある。セクションをどうマネジメントするかを明確にルール化し、それを理解した管理者の配置が不可欠だ。
結論からいえば、予約電話は集中と閑散を一定のリズムで繰り返している。したがって、閑散の時間帯には前日のデータチェックをはじめ、管理者が状況に照らしながら相応の仕事を与えることになる。
余談だが、旅館の業務体系では、「やるべき業務をせずに、やらなくてもいい業務に余計な時間を費やしている」こと多い。マネジメント意識の乏しさであり、館内運営システムの不備を示している。例えば、予約電話が1日に100件あったとしよう。1件10分なら2人で計算上はまかなえる。ピーク時を考えれば4人は必要かもしれないが、それを当たり前と思い込んでしまうと、人件費効率は改善できない。そこで閑な時間帯に「何かをさせる」のだが、これがクセ者だ。適正に管理されていないために、責任の所在も曖昧で中途半端な作業内容になってしまう。
そこで、管理者の指揮下で前日の入力データのチェックを行い、管理者は加工(チェック)されたデータを回収・統括して次のステップへと引き継ぐことにすれば、勤務時間帯のムダなアイドルタイムは解消され、人件費効率も改善されることになる。
また、構造改革の基本であるパート化も、こうした仕組みに変更することで可能になる。もちろん、間仕切りをしてヘッドセットを用意すればいいというものではない。タリフの電子化といった大きな関門がある。
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