「求める理想は実現する」 その1
経営ツール「知る」が始点

Press release
  2006.04.01/観光経済新聞

 光陰矢のごとしとは言い古された言葉だが、週刊「観光経済新聞」の紙面を拝借して連載を始めたころは、「21世紀も目前」と書いた。それが、すでに2006年になっている。当時は、まさに平成不況の真っ只中で、デフレスパイラルの渦に観光・宿泊業界だけでなく日本中が翻弄されていた。それから現在までの間に何度か「景気底入れ」といった話題も浮上したのだが、いずれも我々の期待感に応えるものではなかったといえる。
それが、「今度は…」と思えるような状況に変ってきた。01年から続いていた日本銀行の量的緩和策が先月(3月)9日に解除決定された。総理の任期がらみの「デフレ脱却」ではなく、需要が供給を上回り始める現象も明らかになってきた。デフレが収束に向かっているということだ。

◆構造改革の2側面
ひるがえって6〜7年前を思い起こすと、筆者は「赤字を消して黒字体質への転換」を図る構造改革を声高に提唱していた。この構造改革には、2つの側面があった。1つは、価格志向が強まるデフレスパイラルの中で生じていた「客が増えても収入増えず」の状況を克服することだ。営業努力で客を増やしても、消費単価が下落を続けていたのでは利益が出ない。それならば、経営に潜むムリ・ムラ・ムダを探り出し、それを排除することで「当面の利益」を確保するという側面だ。
もう1つは、相応の利益が確保できている旅館であれば、将来へ向けた質的充実の原資を稼ぎ出すということ。端的にいえば、接客サービスの向上を図り、CS(顧客満足)を高めるのをはじめ、ハードやソフトを充実させ、一歩先んずる「差別化の実現」を可能とする側面だった。
そうした意味から、「厳しいのは、ウチだけじゃない」と思い込むような業界の奇妙な「共同幻想」を払拭し、厳しい状況を自らの環境と捉え、自らに向けて「構造改革の大鉈を振るへ」と訴え続けてきた。個々の努力で現状を脱却することが何よりも必要だったからだ。
そして、多くの旅館が構造改革に取組んだ。現時点で総括するならば、2つの側面のうち、「差別化の実現」を目指す相応の利益を確保している旅館では、構造改革によるシステム変更・運営変更が定着し、当初の目的を達成するとともに次のステップへと進んでいる。すでに筆者のコンサルティングを卒業し、自ら独自の方向性を模索するケースも実際に出ている。これは喜ばしいことだ。
一方、当面の利益を確保するため「駆け込み寺」のように着手した旅館では、当初目的は達したものの、次のステップである余力を原資に置き換える段階で、躊躇するケースもあった。利益に乏しかった旅館が利益を確保したことで「満足」する。それはそれでいいのだが、構造改革を提唱する筆者としては、一抹の寂しさもある。元の木阿弥にならないことを願うばかりだ。
また、一度は思い立ち、実際に現状を分析はしてみたものの、実行に移さなかったケースが多々あったのも、業界の実態として総括しなければならないだろう。そこには、思いがけない陥穽があった。構造改革の推進では、「モノの流れ」を変える運営変更が欠かせない。その初期段階で、一定の設備機器を導入する。といって、大型融資ではなくリースで賄える範囲だ。ところが、そのリースの「与信」をクリアできない旅館が、あまりにも多かったということ。これは、誤算だった。
こうした総括の下でみえてくることがある。現状への不満こそ口にするが、「どんな旅館にしたいのか」の描きに乏しいということ。理由はさまざまだが、1つには理想の実現ヘ向けたツールが身近にイメージできていない。ならば、サポートするツール紹介することで「理想を追い求めて欲しい」と思う。内部的には、構造改革の思想を機軸にした予約管理をはじめとする諸システム、対外的には地域再生や旅館業としてのアライアンスなどへ向けた多様な事業展開がある。いずれにしても、理想を求めなければ始まらない。そんな願いを込めて「求める理想は実現する」とタイトルをつけてみた。

(つづく)