「旅館再創業」 その76
「人件費計画」が視野に入る

Press release
  2006.02.11/観光経済新聞

 サゴーロイヤルホテルの構造構造改革についてこれまでを振り返ってみると、第6回の運営指導会議ごろまでは、生産管理が主体であり、作業現場と私のバトルみたいな世界でもあったといえなくもない。
そして、人件費効率にかかわる事項については「もう、先が見えた」という状況に近づきつつある。もっとも、次のステップは一段と厳しいものがある。それが人件費計画だ。
サゴーロイヤルホテルというよりサゴーエンタープライズは、ビジネスホテルを含めた事業体として人事を回す関係から、1人ひとりの幹部の力量は、それなりに高いものを育ててきた。しかし、半面では時代のマーケット変化に合わせた見直しも、当然ながら行っていかなければならない。ところが、見直すための基準となるツールは、私のみる限り、これまでの仕組みで十分といえない。例えば、人事考課の仕組み1つにしても、現在の状況に整合しているかが問われることになる。
これについて構造改革では、等級給与制度を用意している。もちろん、複合的な事業展開をしてきたサゴーロイヤルホテルでは、それなりの等級給与制を制度化している。ただ、いわゆる一般的な年功序列制になっていることをはじめ、少なからぬ問題がある。
例えば、構造改革による人事考課では、帰属意識の項目がある。これについては、現場担当者からも「確かに必要だ」との反応があった。日曜は休みたいというのも分かるが、それを許されないのがこの仕事でもある。
また、こうした制度は、会社の利益創出とともに、働く人間の満足度を高める仕組みともいえる。そして双方が満足し、さらにお客にも満足の一端を還元するには、すべての原点・原資であるプロフィット、いわゆる利益を追求していかなければならないわけだ。
だが、前々回に触れたビジネスホテルに比べると、旅館経営は利益性に乏しい。その端的な要因として、旅館部門は泊食分離でなくすべてがインクルードされている点を指摘した。
視点を変えると、旅館経営はもともと水物商売的ではあっても、経営の基本的な数値まで水物にしているのが、現状の旅館経営では多々見受けられる。だが、こうしたことに起因する利益の不足感がある一方、旅館文化といい慣わされてきたカルチャーが旅館にはある。これに対しては、連載冒頭で指摘した「経営浪漫」を感じる経営者も少なくないはずだ。誤解してならないのは、基礎数字を水物にするのが浪漫ではない。基本的な数値は明確に抑え、健全な利益構造の中で文化が語られなければならない。もちろん、日銭・月銭の健全性のほかに、宝くじ的な利益もあり、それらが混交する中で一喜一憂しながら展開するところに経営浪漫がある。
余談だが、昨今話題になっている耐震偽装にしても、あるいはIT企業の株式操作疑惑にしても、目先の利益ばかりで企業の「基礎数字」といった発想が欠落している。これでは、単なる水物・際物であり、仮に一時の成功があっても経営浪漫と呼ぶのはおこがましい。旅館経営での「貢ぎの構造」も同じだ。
それはさておき、サゴーロイヤルホテル社長の小野晃司は、そうした根幹の数字を確立するために私を招請したのではないか、そんな気がしている。なぜなら、一般論としていうならば、旅館ホテルの経営オペレーションでは、トップダウンだけでは押し通せない部分が多々あるからだ。これは、従来の経営が多分に家業的だからでもある。いわば、日本人的な「情のしがらみ」が経営オペレーションの随所に根を張っている。それ自体は決して否定されるものではないし、アットホームを売り物する家族的雰囲気の旅館で、現状の経営状況に満足していれば、別にいじる必要はない。ただし、利益が出ないなどの不満を口にするのは、そうした旅館では許されないはずだ。
ともあれ、今後の課題としては、4月からの人件費計画の策定が、ここへきて急浮上してきた。というよりも、ある意味では当然の帰結といえる。


(つづく)

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