「旅館再創業」 その75
人件費の「抜本施策」段階へ
Press release
  2006.02.04/観光経済新聞

 サゴーロイヤルホテルの構造構造改革が進むにつれて、前号で記したように作業現場でのミクロ解析が進展した。それに合わせて労働時間がしっかり掌握されてくると、作業に潜むムリ・ムラ・ムダが浮き彫りにされる。具体的にいえば、現在の運営コスト(平均人件費)を掛けたものが最終のオペレーションコストとして示されるわけだ。
この人件費を考える時に念頭におかねばならない事項がある。というのも、ホテル人件費の考え方としては、あくまでも「ワーカー単価」と、今後の会社を維持していくための「投資的な人件費単価」、それと「管理コスト」の3つの区分がある。一般には、これをすべて包括的に考えるところから不整合が生じる。
例えば、各部門には役職者がいて、給与は全国大会レベルのものを貰っていながら、仕事は地方大会レベルということがあり得る ここで問題としている平均人件費には、管理者コストとワーカーコストがあるということだ。
ひるがえって、これとは別に、理想人件費の単価を掛けるコスト計算の方法がある。理想人件費とは、パートならパートだけで管理者がまったくいない場合、あるいは社員が関与しないなど、いろいろな条件がある。そうなると、管理者コストに対する見直しが不可欠なのだ。もう1つは、支配人室というのがある。この人件費は、別途考える必要がある。
少々回りくどい言回しになってしまったが、プロフィットと人件費の双曲線を、もっとも適切な位置で交わるように組み立てることが肝心なのだ。平たくいえば、あちこちでのコンサルでしばしば耳にする言葉に「旅館はなぜ利益が出ないのか」というのがある。結論からいえば、高い料金のお客から得た儲けを、低い料金のお客に貢いでいるからにほかならない。あるいは、原価率の設定が、宿泊単価をベースに行っていること。これでは利益の創出はできない。
つまり、これまで構造改革の必要性を語るなかで述べてきたさまざまな要因が、利益の出しにくい旅館の経営構造を形づくっている。ゆえに、抜本的な構造改革が必要なのである。その構造の一つに人件費の問題がある。
視点を変えてみよう。前号でビジネスホテルの経営について触れた。泊食分離によって、不動産業と料飲業のダブルチャージを実現している。そこで考えなければならないのは、構造として利益が出るものと、仕組みとして利益が出るものがあるということだ。
構造として利益が出ているのなら、仕組みはいじらなくてもいい。例えば、業界の低価格競争や原価が不明瞭な売り方など、構造的な問題で利益が出ていないのならば、仕組みとして利益がでるような方法を模索しなければならない。その対応策の1つとして、人件費の見直しが必要になる。だが、ひと口に人件費といっても、小手先の削減策ではなく、人事考課制度を含む抜本的な施策が講じられなければ狙いとおりの成果は得られない。
また、仮にビジネスホテル部門で利益が出ているとしよう。そうした場合の利益は、すべてが現在の努力によるものだけとはいい難い。むしろ、過去に利益の出る仕組みが構築され、その仕組みを上手に管理することで現在の利益の多くが生み出されている場合がある。仕組みを作りあげた功績と管理による実績を一緒くたに捉えると、人件費にあった3つの区分を一からげにするようなケースと同様の不整合が生じる。
ホテルのオペレーションは、こうした多面的で相互に干渉しあう関係性の中で捉える必要がある。
したがって、給与体系にしても、年俸制をベースとし、当然ながら賞与は利益分配金といった位置付けになる。その場合に、前述したような人件費の3区分や利益創出の仕組みなどを考慮しなければならないということだ
 こうした課題を克服するには、カンパニー制の模索が必要となる。それと、適正な人事考課制度の構築である。構造改革の次なる関門としては、現在施行されている等級給与制に、新たな視点からメスを入れることになる。

(つづく)

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