「旅館再創業」 その73
人件比率の算出ファクター
Press release
  2006.01.14/観光経済新聞

 安定的な利益の創出では、人件費率がカギを握る。その人件費率を左右するのが、各現場の作業に潜むムリ・ムラ・ムダだ。構造改革では、そうした実態を徹底的に洗い出し、実情に即した形でシステム設計を行い、運営変更をかけることになる。そこで改善が見られるのは、これまでの現場作業に多大のムリ・ムラ・ムダがあったことにほかならない
 また、運営変更に際して業務を部門別に解析すると、客数に連動する部門としない部門がある。例えば接待をはじめとするサービス部門は、客数に連動した要員配置を必要とするが、メンテナンス部門や管理部門は基本的に連動しない。そうした解析のうえで、それぞれに細密なシフト管理体制が求められるわけだが、肝心なことは作業が終われば、その時点で勤務を終了させることだ。平たくいえば「帰らせろ」ということになる。つまり、それくらいシビアな時間管理をせよということだ。
その結果、サゴーロイヤルホテルの人件費率は、前回記したように昨年10月期に低下傾向へ移行する形が表れはじめた。
だが、これは構造改革によるサクセスストーリーの第1章にすぎない。次の展開を語る前に、ここで若干の補足をしておかなければなるまい。
それは、人件費率の捉え方だ。旅館業界では「どこそこは25%で運営しているのに、わが社は30%もかかっている」といった会話をしばしば耳にする。その場合、売上に対して人件費がどれだけの率であるかを単純に捉えている。こうした旅館業の常識ともいえる算出法では、極論をいえば経営指標にならない。客単価と稼働率によって算出されなければ、本来の人件費率にはならないからだ。
例えば、客数(稼働率)に連動した要員展開をせずに固定化していれば、多客時の人件費率は低下するが、逆になると一気に上昇してしまう。また、いくら多客時であっても単価が低ければ、同様のことがいえる。つまり、客単価と稼働率という2つのファクターを度外視して人件費率を云々しても意味がない。
キーワードを整理すると、作業部門別の人員構成では「客数連動」「客数非連動」、算定の分母となる売上では「客単価」「稼働率」となり、これらを構造改革のセオリーに当てはめながらクロスチェックをしなければならない。その結果、1つの指標として全社的視点に立脚した部門別の人件費率が求められる。

さて、構造改革の運営変更によって、作業に潜むムリ・ムラ・ムダを排除し、さらにシフト管理で労働時間に潜むロスを徹底的につぶしても、改善目標に到達できないケースもある。理由として大きいのは、システム設計に則った運営変更が果たされていない場合で、いわば従業員が慣れている旧弊を正そうとしない場合に多発する。もう1つは、キーワードにあげた4点のほかに、作業部門別スキルと適正賃金のバランス問題がある。
この改善目標に到達できない2つのケースのうち、前者は作業状況などの具体的なチェック項目によって作業実態を明らかにし、是正措置や再教育などで改善できる。これに対して後者は、経営の抜本的な部分にまでメスを入れて解析しなければならない。
後者について一般論でいえば、管理職部門での非採算性を指摘できるケースが多い。なぜなら、作業内容を単純に数値化できない一面があるからだ。あるいは「スキルと賃金バランスの適正化」ともいえるが、これには大手術が必要だ。バブル崩壊後の人件費1割カットというようなリストラ的手法では、モチベーションの低下を招くだけでなく、良質な人材を外部へ流失させることにもなりかねない。これでは、この問題の根本的な解決方法とはならない。
これに対して構造改革では、運営変更のもう一方の柱として旅館業の人事考課制度なども用意している。
さて、サゴーロイヤルホテルでの人件費率は、低下する傾向にあるものの、目標達成にはさらに幾つかの関門がありそうだ。何をどこまで行うのか? 今年の展開に注目していきたい。

(つづく)

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