「旅館再創業」 その72
人件費の低減へ踏み出す
Press release
  2006.01.05/観光経済新聞

 平成18年が明けた。今期の年末年始旅行市場は、個人消費に若干の明るさが戻った気配をみせている。だが、それが本物か否かの判断は軽々にできない。世界的な原油の高騰は相変わらず続いているし、景気の不安定要因は多分にある。
それはさておき、前年の最終号で、構造改革では経営者の理念を体現することが大きな眼目でもあると述べ、ここサゴーロイヤルホテルの経営者・小野晃司が、ビジネスホテルをはじめ面的な経営に携わっている点を記した。これにはさらに書き加えなければならない部分がある。
ビジネスホテルから得られるプロフィットは、ボリューム的に限界があるものの安定している。だが、経営上での「面白み」は旅館の方に分がある、と私は思う。旅館はうまく経営すれば利益が大きくなる可能性も多分にあるからだ。そうした感覚は、小野晃司も同じだろう。さらに、採算や目先の利益一点張りではなく、冒険心や浪漫につながる心情も兼ね備えているのが、サゴーロイヤルホテルの経営者像であろう。
だが、ビジネスホテルと旅館業を同時に経営していることから、社員への利益還元において全社的な整合を図らねばならない。そうなると、利益の出ている部門から出ていない部門を補填する形になる。いい換えればサゴーロイヤルホテルは、全社的な視座から俯瞰すると、構造改革を企図せざるを得ない状況が、そこにあった。

今回の構造改革をスタート時点から前回の指導会議の内容を振り返ると、マクロな仕組みづくりが大半を占めていた。「万博が閉幕したあとで一気に変更をしたい」という小野晃司の狙いに沿ったものだった。したがって、過去6回の指導会議において、経営者の立場から、利益率の問題やその根幹にある人件費率などを表面に出すことはなかった。しかし、第7回の会議では、いよいよ本音の一端を垣間見せた。
というのも、経営者の理念や本音の体現に主眼を置く構造改革では、そうした段階を当初からプログラミングしている。いわば、本当の狙いが流れのなかで「当然」として社員に受容れられるシチュエーションづくりを、さり気なく織り込んでいる。前回「暗黙の了解」と表現したのが、そのことに他ならない。
現場のスキルが成熟していればいるほど(習慣による「慣れ」ではない)、そのタイミングは難しい。例えば、今回は次のような段階を踏んだ。
人件費率の改正は、リエンジニアリングの手法で各現場のムリ・ムラ・ムダを洗い直す仕組みを構築しなければならない。これは、現状の作業手法での限界を見極めることにもつながっている。しかし、そうした作業手順などの洗い直しをセオリーどおりに行ったとしても、人件費率の面で利益が出てくるとは限らない。作業の陣容(構成員)が変っていないからだ。
例えば、従来から引き継いだ現状の要員構成で作業単価を時間換算したとき、仮に2千円になっているとしよう。これでは、作業フローをどのように組替えても現状を改善することはできない

そこで、パート化などの施策を講じて1千800円にする具体的な施策が必要になる。このとき、地元のパート労働力の実態、賃金レートをはじめ多面的な解析と、構造改革による運営変更の実際とを整合させなければならない。そこに、プロとしてのノウハウがある。これは、決して我田引水ではない。
さて、ここサゴーロイヤルホテルでも、あらかじめそこに帰結するプログラムでこれまで臨んできた。
いま、それに対する1つの結果として、昨年10月期に人件費率の低下傾向が出はじめた。大型イベントの開催やそれに連動する集客プラス期で、売上分母が大きければ人件費率は低下する。ということは、分母が小さくなれば比率が上昇することになる。ところが、分母が小さくなっても人件費率が低下しはじめたことは、構造改革による社員・パート比率をはじめ、運営変更などの効果といえる。しかも、フロント対応をはじめとする接遇評価のアンケート点数は、上昇傾向にある。

 

(つづく)

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