サゴーロイヤルホテルの構造改革は、昨年の浜名湖花博や今秋まで開催された愛知万博など、一連の大型イベントが終わったことで、第2フェーズへと移行した。私のプログラムでいえば、現場指導を徹底して行う段階が終わり、業務別の作業時間管理の段階に入ったということになる。実は、この第2段階が社長の小野晃司と私の間にあった「暗黙の出発点」だったと、私は受けとめている。
構造改革には、当然ながら一定のセオリーと、それを実現させるプロセスがある。だが、それらは鋳型にはめ込こんで、同じ経営形態の旅館クローンを強いるようなものでは、決してない。それが旅館個々に違う「暗黙の出発点」であり、旅館の実情を勘案しながら、ケースバイケースで進行する柔軟さでもある。
余談だが、バブル期の旅館を振り返ると、個性化・差別化を掲げながらの没個性化が進み、ハードもソフトも姿形の類似した旅館が全国に多出した。結果として、それが消費者の「旅館イメージ」に発展し、旅館が永年にわたって培ってきた魅力を失わせる一因であるとともに、過剰投資による経営悪化の大きな病巣を孕んでしまった。経営リソースと整合しないムリ・ムラ・ムダの病根を、経営の奥深い部分に潜ませてしまったともいえる。
例えるならば、話題になっている耐震強度と同じだ。躯体を支える鉄筋を間引き、しかも細くすれば建物の強度は失われる。これを旅館経営に当てはめれば、鉄筋ともいえるキャッシュフロー経営をはじめ、安定経営に欠くことのできないリソース配分を無視して、目先の華美ばかりをつくろうってきたのに等しい。そうした流れは、耐震偽装問題で黒幕視されるのと同様に当時のコンサルに問題があったともいえる。
本題に戻ろう。なぜ、サゴーロイヤルホテルに「暗黙の出発点」が存在したのかを解くことが、「骨太の構造改革」の推進手法を知るヒントにもなっている。予備調査に始まり、第1回から第6回までの運営指導会議は、現場指導が大きなウエートを占めていた。これは、すでに述べてきたように、サゴーロイヤルホテルではTQMをはじめ、現場での作業スキルに一定の成熟がみられたからだ。しかし、そのままでは耐震構造と同じで、より高い経営目標を積み上げたときに、決して十分な体制と耐性が保てるとはいい難い。プロのノウハウで補強する必要があった。それが、徹底した現場指導だった。
これを踏まえたフェーズ2の「業務別の作業時間管理」とは、一言でいえば「プロフィット=利益」だ。経営に余力をもたせ、さらなるステップアップを可能とさせる骨太のリソースを構築する段階といえる。したがって、利益と大きく関る人件費率を洗い直し、効率化を図ることになる。ただし、接遇サービスをはじめとする基幹の鉄骨を細くして、そこから利益を確保しようとする姑息な手段は、構造改革では行わない。業務内容とスキルを整合させ、人員の増強が必要な部署については、社員とパート比率など勘案し、CSを高めながらプロフィットを創出するのだ。
そこで、ケースバイケースの柔軟さが必要となる。とりわけ経営者の理念を体現することが大きな眼目でもある。ここサゴーロイヤルホテルの経営者・小野晃司は、そうした意味では多面的といえる。旅館だけを経営している普通のオーナーとは違う。一方でビジネスホテルを経営しているためだ。経営する2つの業態をみると、ビジネスホテルの料飲部門では、数人の厨房や接客要員で50〜60人の宴会をこなしている。売上のボリュームこそ大きくはないが、それでも「確実に利益を生み出している」と小野晃司はいう。1件あたりの利益は小さくても、それを積み重ねれば大きな利益になるのは自明の理だ。ところが旅館業でのそうした利益は、出ることもあれば逆に持ち出しのケースもある。シビアに捉えれば、ボリューム的には限界があるものの安定した利益のでるビジネスホテルの方がいいに決まっている。だが、経営する上での「面白み」を考えると旅館の方にある。
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