構造改革では、発想の1つとして「モノの動きでヒトの動きを捉える」といった表現を、私は繰り返してきた。これは、従来の作業にみられる「ヒトの動きで仕事を与える」という隙間時間の発想とは、根本的に異なっている。
そうした形で各作業現場の手順を観察すると、どのセクションにもしばしば耳にするコマーシャルフレーズではないが「2割、3割はあたりまえ」のムダが実際に検出される。ここ、サゴーロイヤルホテルでも、そうした観点から現場視察を行い、この状況を突きつけると、マネジメント側は沈黙さざるを得なかった。
もちろん、その沈黙を「してやったり」と思うほどの気持ちは、私に毛頭もない。これまでも記したように、それに気づいてもらえたことが、今後の構造改革の進展に大いに弾みがつくからだ。
というのも、サゴーロイヤルホテルの現場スタッフは、TQMなどを通して問題意識をもつ訓練が重ねられている。構造改革の意味あいが理解できないうちは、いい意味の知能犯的な「抵抗」をみせるが、一度理解できれば急速に前進するスキルの高さがある。そこに、通常とは異なる現場主導型の構造改革が可能な要素を見出している。
さて、TQMや現場主導に関連した事柄として、構造改革では欠かせない昼間の食器洗浄を、あえて変則的にした経緯も記しておきたい。そこには、構造改革のテーマの1つであるパートとの兼ね合いがあった。
社員主体から状況に応じたパートへのシフトは、構造改革を推進するうえで欠かせない課題にもなっている。だが、この地域では、パート従業員のあり方を考える前段として、他の地域とは異なる状況がみられた。それは、昼間のパートを集め難いという問題点でもある。
一般にパートは、主婦が子供を送り出した後の帰宅までの時間を外で働くケースが多い。そうしたパート実態に照らした時、この地域では日本でも名だたる製造業が、昼間パート層を多く雇用している。しかも、土・日曜日が繁忙のサービス業とは違って、一般な雇用形態(週休2日体制など)に準じる形で雇用している。これでは、パート募集をかけるうえで、サービス業の分が悪い。
ところが、実態とは別に現地調査をしてみると、パート就労者に二重就業を希望する人が多いことが分かった。そうした人は、仕事に対するモチベーションが高い。しかも、さまざまスキルをもった人がいる。
そこで、従来の運営変更とは手法を若干見直すことにした。それが、構造改革の基本の一つである中間洗浄の一部を、実情に合わせて移行させるといった結論だった。
そうしたパートの現状を踏まえて、インストラクターを再度投入(9月期)し、「ムリ・ムラ・ムダ」のない夜間洗浄(深夜残業の発生しない時間帯で可能な洗浄)を少しだけ行い、手間のかかる洗浄を朝の時間帯とした。
つまり、従来の夜間洗浄を軽減させて、朝の洗浄部隊と昼の洗浄部隊をつくりあげた。これまでの「すべて昼間洗浄」とするシステム構築からみると、異例の感は否めないのだが、肝心なことは実情に配慮しながら軟着陸をさせることにある。教条的に基本形を固執するだけでは、状況の改善はできない。
さらにいうならば、全国にあまたの旅館ホテルがあっても、サゴーロイヤルホテルは1社しかない。同じ経営規模の旅館・ホテルは多々あるが、企業風土やカルチャーといった言葉で表現される「その地で培ってきた企業特性」は、ここにしかない。構造改革とは、その企業特性を多面的な視座から浮き彫りし、それを総合的な視点で再構築して、そこに相応しい目標を定めて実行・推進することにほかならない。
そのあたりの判断基準、いわば使い分けも私のノウハウの1つであり、安易に実情に沿うだけでは革新は得られない。構造改革の「真似はできない」「真似をしたが効果はなかった」といわれるのも、実はそうした判断基準に至るセオリーが、自画自賛ではないがかなり高度なものだと私は思っている。
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