いま、サゴーロイヤルホテルの構造改革は、2番目のハードルである「シフト強化」へ向おうとしている。10月までの第1ハードルを総括すると、およそ次ぎのことがいえる。
配膳システムを導入し、それと同時に組織のあり方も、セクショナリズムではなく有機的な結合に変えることで、さまざまな効果が芽生えはじめている。
例えば、接待係は宴会対応だけで備品準備などの後方作業は、基本的にはしない方向に進んだ。そこで生じる余力は、フロントと連携した送迎に振り向けることで、お客さまの好印象を勝ち取り、サービス評価の指針でもあるアンケート点数の向上につながっている。これらを客観的に評価すれば「○」以外の何ものでもない。
また、備品準備をはじめパントリーの煩雑・使い難さといった問題が解決へ向っていることも「○」といえる。そしてバック運営やバイキング会場の重荷も解消へと進んでいる。
こうした「○」は、構造改革がセオリーどおりに推進されれば、早晩「◎」へと進化する。だが、今春の組織改訂・運営変更から半年間の道程は、決して平板なものではなかった。ある意味で「完成形」と現場が受けとめている作業手法の変更だったからだ。
例えば食器洗浄もその1つにあげられる。TQMで経験的に身に着けてきた作業のやり方と、構造改革のプロの仕組みは根本的に違う。ここサゴーロイヤルホテルの洗浄室も、チーフにいわせれば「効率よくやってきている」という。
ところが、前号で記したように、現場視察で問題点を指摘し、実践指導をしてみせると「きょうの話は、とてもよく分かった」という。現場で話して実践しなければ分からないのならば、これまでの指導会議に費やした時間は、いったい何だったのか……と、笑い話のような実態が、実は経験主義の正体なのだ。言葉は悪いが、証拠を突きつけなければ認めない「人の常」は、こうしたところにも表れてくる。
それはともかく、もう少し具体的にいうならば、夜の食器洗浄室では、2人が洗い4人がそれを受ける形をとっている。受ける4人のうち2人は待っているだけで、これではバランスが悪い。作業をする人間にムダがあってはいけない。
このことを実践的にいえば、次のように表現できる。1人作業ならば、システム発想の必要はない。その人の能力によって作業量が決まる。ところが、2人以上の複数では、システム発想が必要になる。例えば、料理盛付の理想的なパターンは、9時から作業を開始すると想定したときに、1人が30分早く作業に入り、本作業へすぐ入れるように食材を準備する。
これは食器洗浄でも同じことで、洗浄作業が定刻にスタートできるように、1人が前もって準備をしておくことが肝心だ。今回の調査でも、食器洗浄室は出勤から15分間も実際の作業には入れずに、8人が右往左往しながら洗う前段階の作業に追われている。実に、準備だけで120分(8人×15分)もかかっている。ところが、その作業は1人が30分早く出て始めれば、4分の1で済んでしまう。
頭数が揃えばいいという問題ではない。いい換えれば、1人が主力になろうとすると、他が犠牲にならなければならない。いわゆる「追い回し」のような考え方が必要になるわけだが、その組み立て方に私のノウハウがある。これは、何十人何百人であろうとも同じことがいえる。
これは、「ヒトの動きで仕事を与える」という隙間時間の作業と、私のいう「モノの動きでヒトの動きを捉える」といった発想との決定的な違いだった。その背景には、タテ割のセクショナリズムであり、それがオールラウンド発想の前で大きな壁となっていた。これを解決しないと構造改革はなし得ない。
社長の小野晃司は、従来とは異なる「モノの動きで考える」ことの必要性は分かっていた。それが口許まで出かかっていたであろうことは、容易に想像できるのだが、あえて口にはしない。短気と気長が同居したような深みを、私はそこに見た思いだった。
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