「旅館再創業」 その66
培ってきた自信が「カセ」に
Press release
  2005.11.12/観光経済新聞

 サゴーロイヤルホテルの構造改革による運営変更では、これまでの連載で紹介した高山グリーンホテルと同様に、現場主導型で推進している。そこに至る経緯にはいろいろな要素が働いているが、とりわけ今年度経営スローガンに「考える管理職」というのがある。社長の意向に沿って「何をすべきか」を自ら考える管理職が求められている。
私が企画設計としてコンサル業務に携わる際には、すべてを請負うことも可能だし、むしろそうした対応をせざるを得ないケースの方が実際には多い。しかし、TQMで培ったスキルのあるここサゴーロイヤルホテルでは、現場がつくりあげてきた「やり方」の一部を組み込む形で第1段階を越え、それを踏まえて第2段階へ進むことにした。
10月の運営指導会議は数えて5回目。前回書いたように、構造改革による人員計画を提案したのが1月で、配膳システムの基本設計と運営変更のマスタープランが3月から試行段階に入り、実際の運営変更にともなう指導会議が5月から始まった。
これまでを振り返ってみると、TQMを積極的に取組んできたサゴーロイヤルホテルだけあって、作業個々のオペレーションについては、他の一般的な旅館のオペレーションに比べれば高い力量を身に着けていることは分かった。それゆえに、構造改革における運営変更の意味あいが、簡単に理解できて実践に移されるとは、当初から思えなかった。現場の自負心は、強ければ強いほどレボリューションを忌避する。
例えば、配膳システムがそうだ。プロとアマの違いがあるのだが、自分たちなりに配膳や下膳の改善を行ってきたことへの自負をもっていた。「企画設計は、なぜ、自分たちがやってきたのと同じようなことをいうのか」という眼差しが、スタート時にはありありと見てとれた。
確かに、以前から配膳システムで用いる冷蔵庫や物流機器に類するものを、備えて活用してきた。とりわけ下膳については、配膳システムを導入すると、下膳から回転まで、客20人に1人の宴会割付でおよそ1時間45分かかる。ところが、サゴーロイヤルホテルがこれまで行ってきた差込などの方法をとると、およそ1時間で終わっている。そこでの45分の差は、接待にとっては非常に大きい。
運営変更に着手してしばらくが経過した6月ごろ、「下膳の時間が従来の2倍も3倍もかかる」といった声が現場から上がってきた。ところが現場のそうした不満は、1作業についての視点でしかない。従来の仕方では欠かせない食器洗浄室の夜間作業、それによるトータル的なマネジメントの姿勢が欠落している。夜間作業の人員不足は「ヒトとカネ」の投入で解決するだけであり、そこでは昼間にスイッチする発想は生まれない。
そうした疑義に対しては「全社効率の観点」を強調し、何度も改めるように指導するのだが、自分たちが永年培ってきた自信から、従おうとしない。そこで、構造改革による運営変更で先行する高山グリーンホテルを見学することになった。見学というよりは、企画設計のアラ探しのようなものだった――と思うのは多少うがち過ぎかもしれないが、それに近いものを当時の雰囲気は醸していた。
結果は、館内パブリック・施設が非常に充実しているなど、高山グリーンホテルの一般的な感想のほかに、館内運営に関しては、オールラウンドのセクションが確立された「質の高さ」を実感してきた。また、社員の自然減(構造改革後、その時点で30人減)とパート現状の維持による経営負荷の削減実態、公休のあり方、サービスの質的向上などで認識を新たにしたようだった。
とりわけバックヤードについては、自館のTQMやQC活動を通して自信をもっていたにもかかわらず、「大変によく整理整頓されており、参考にしたい」と感想を述べた。これは、「いいものは、いい」と理解できる高いスキルをもっていることの証であり、そうした理解力の高さは、今後の構造改革を進める際にも発揮されるものと、私は内心で彼らに快哉を送った。


(つづく)

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