現在進行中の高山グリーンホテルでの運営変更ストーリは、10月に入って習熟段階を迎えた。そこで、今回から舞台を舘山寺温泉のサゴーロイヤルホテルに移すことにした。
その日、私は東海道新幹線を浜松駅で下車した。かつて「夢の超特急」と呼ばれていた新幹線だが、いまでは東北から九州へと新幹線網が広がり、さらに東京‐大阪を2時間半足らずで結ぶ「のぞみ」が登場して以来、浜松駅に停車する「こだま」は、のんびりとしたローカル線の旅情めいたものさえ感じる。
そうした思いで眺めるせいか、駅頭には再開発によるものであろうビル群が展開しているものの、大都会の雑踏といった感じは薄い。その駅前を後に、車はひた走っている。市街地から住宅地を抜け、車窓には緑に蔽われた小高い丘が続いている。地方都市特有の繁華街・郊外住宅地、そして田園地帯といったロケーション展開だ。
ただ、のどかな景観であっても、時おり目に付く旅館や観光施設の案内板などが、観光エリアへ確実に近づいていることを物語っている。私が単なる観光客であれば、期待感が徐々に膨らむ旅情を満喫する時なのかもしれない。だが、この日はサゴーロイヤルホテルで5回目の構造改革指導会議が待っているのだ。
私は車に揺られながら、出会いから今日までを振り返ってみた。予備調査に入ったのは、2000年の4月。折しも巷ではコンピュータの日付問題をはじめ、何かとミレニアム話題でかしましい頃だった。
その当時、構造改革への関心は示されたものの、実際のシステム設計・運営変更などは、時期尚早と受けとめる社内事情があったのかもしれない。
というのも、サゴーロイヤルホテルを全国レベルの基準で「老舗」と呼ぶには抵抗もあるが、舘山寺の観光発展史とは大きくリンクしている。少なくとも、私はそう思っている。そうなると、善し悪しは別にして自館風の経営や運営の形態が、できあがっていて不思議はない。それを変革するには、タイミングと相応の時間が必要なことも一面では理解できる。ただし、それによって運営変更の好機を逸する場合もある。
余談だが、舘山寺温泉が全国区の観光地として表舞台に登場したのは、それほど古いものではない。もちろん、地名の由来である舘山寺は、弘法大師が創建したという古刹であり、およそ1200年の歴史を誇っている
そうした歴史と風光明媚な浜名湖の景観を合致させて、観光地としての本格的な展開が始まったのは、戦後になってからのことだと聞いている。
本題に戻ろう。2000年の時点では形をみなかったが、経営陣の「現状を変える新しい模索」は、2年後の02年に1つの形となって表れた。それは、私とものISOワークショップに参加したことだ。そして03年には「ISO9001」の認証を取得している。
ISOの認証取得は、一般的にみると時間と多額の費用がかかるといわれている。しかし、ワークショップを利用することで、費用面では常識の範囲を大きく下回ることが可能だし、取得までの期間も大幅に軽減される。加えてサゴーロイヤルホテルでは、以前からTQMによる品質管理が導入されていた。これは、品質に対する社員意識の面で「ゼロからのスタート」に比べれば、大いに貢献する。
だが、そうした社員意識は、構造改革を進めようとする場合に、決してプラス面の作用だけではない。現状維持――へ働くことにもなる。これが、実は難物でもある。
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