「旅館再創業」 その62
グレードにも関るフロント

Press release
  2005.10.08/観光経済新聞

 高山グリーンホテルの運営変更では、フロントがテーマの1つであり、今回の構造改革を象徴するものともいえる。運営経費のムダを省く以上に、フロントサービスの充実を大テーマに掲げているからだ。
ひるかえって、バブル経済が崩壊した後のリストラクチュアリングは、本来の構造改革ではなく、いわゆる人員・人件費の削減だった。結果は、人員を減らすことでサービスが低下し、質の低下がさらに価格を押し下げる悪循環ループにはまっていた。
これに対して本来の構造改革は、組織の中に潜むムリ・ムラ・ムダを排除することにある。これによって生じた余力を「プロフィット=利益」とみなさねばならない経営レベルの旅館も多いが、ここ高山グリーンホテルでは、それをサービスの充実に回せる経営レベルにある。
鶏と卵の後先を論じる愚は避けるが、目先の利益に汲々とする前に、なすべき構造改革に取組み、質的向上によるプロフィット拡大を目指すことこそ経営者の手腕といえよう。
そこで、高山グリーンホテルでのフロント改革では、フロントサービス、フロントカウンター、バックオフィスの3部門に業務所轄を区分し、送迎・駐車場整理から呈茶までを、客数に連動した形で運営するほか、大テーマのフロントカウンター業務は、人員を肥大化させずに充実を図る。
フロントの充実こそ、実は集客にも大きく影響してくる。お客さまの立場からみると、料理は食べてみなければ評価できないし、客室もパンフレットだけではグレードが正確につかめない。そこに「泊ってみなければ…」という旅館特有の評価方法にならざるを得ない実情がある。
そうした中で、お客さまに旅館グレードを印象づけるのは、チェックイン時の第一印象であり、チェックアウト・清算時の泊後感だ。その意味でフロントは、それらを左右する重要な部署といえる。
それだけではない。ここ高山グリーンホテルには、宿泊客だけでなくツアー客も利用する飛騨物産館がある。物産館目当てのお客さまが旅館のフロントに訪ねてきても、相応の対応をしなければならい。そこでの評価までが高山グリーンホテル全体として問われる。
いずれにしても、大半の旅館では、作業に十分な人数を与えているが、ピーク時には人員不足を感じるのが、現場の常でもある。そこで「これが限界」といった発想に陥ってしまう。しかも、〈隙間時間作業割当〉という病が蔓延している。例えば、6時間で片付く接客の仕事に対して、8時間勤務をさせる。このめに、バックヤードなどで2時間の〈隙間時間作業〉をさせる。それが2時間で片付かずかないと、「とにかく忙しい」といった状況を生み出し、本来の業務へのモチベーションまで下げさせてしまう。
また、現場の長にもそれぞれ性格がある。人件費を抑えれば利益が出ると思う人間もいれば、人件費はかかってもサービスを上げれば結果として増売効果が期待できると考え込む人間もいる。どちらが現場長として優れているというのではなく、そこにはバランス感覚が求められている。
そして、その部署がかかわってきた従来のやり方、内部的な経験だけで解決の道筋を見出そうとすることで「これが限界」という陥穽にはまってしまう。
それを解決する唯一の手段が、構造改革によるシフト運営なのだ。ピーク時をマックスとした要員配置ならば、多様なシチュエーションで十分に機能する。こうした仕事の「仕組み」と併せて意識改革が進めば、「これが限界」という言葉は不要になる。
構造改革は、経営者にとって「不要な経費の削減」といった側面もあるが、実は「品質の向上」への切り札でもある。そして、ムリ・ムラ・ムダを排除することで従業員を労働強化から解放し、さらに適正な労働分配で従業員のモチベーションを高める効果もある。
いわば、経営の健全化とCS(顧客満足)とES(従業員満足)を三位一体で実現させるのが、私の提唱している構造改革の真骨頂でもある。



(つづく)

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