「旅館再創業」 その61
フロント業務所轄を3区分
Press release
  2005.10.01/観光経済新聞

 いま、旅館を客観的に評価する公平な基準はあるのだろうか。とりわけ、お客様が選択する拠りどころとなると、さしずめ宿泊料金ぐらいしか選択基準がない。その料金にしても、平成不況で価格破壊が始まってこの方、かつて3万円だった旅館が1万円でも泊まれるようになってしまうと、それすら何やら雲行きが怪しくなってきた。
ここは一番、業界として共通の基準(根拠)のようなものを模索する必要があるのではないか、などと思えてくる。閑話休題。
さて、高山グリーンホテルで構造改革による運営変更への取組みが始まって、5カ月になる。いよいよ、フロントの業務所轄も変え、勤活システム(勤務活動管理)もスタートする段階になった。
このフロント業務の運営変更では、フロントサービス(仮称)と本来のフロントカウンター業務、それとバックオフィスの3分割が機軸となっている。
なぜフロントなのか。これには幾つかの理由がある。ある、フロント担当者が冗談まじりでいった。
「構造改革が進むに連れて、各セクションが生産性を考えるようになった。それは、それで好ましいことなのだろうが、そうなると自分の部署の生産性には目が行くのだが、逆に他の部門にヘルプを出した時の生産性がね…」
誤解のないように付け加えておくならば、構造改革による運営変更では、他部門にヘルプを出したからといって、それによって出した部門の生産性が下がることはない。それらを織り込んで全体の管理ができるようにシステム設計をする。
逆にいえば、中途半端な運営変更をすると全体としての整合を欠き、部門間に妙な亀裂を生じさせる懸念が、ときに生じる。いわば、効果の出そうな部門のみの「いいとこ取り」や真似だけの構造改革で済まそうとすると、そうした危険性もあるということだ。適正なシステム設計と運営変更指導に、実は私のノウハウが潜んでいる。
さて、くだんのフロント担当者の言は、ヘルプを出す側と要請する側の運営変更の進行度合い、意識の温度差などから生じる過渡的な現象によるものだ。問題は、ヘルプを必要とするフロント業務そのものにあり、そこへメスを入れない限り解決の途はない。
一般的なフロントの運営実情をみると、多くの場合にいわゆる人員の肥大化が生じている。朝昼晩による日内波動の大きさから、アイドルタイムが生じる不適正な要員構成を、半ば認めざるを得なくなっている。それは、ある意味で諦観とさえいえる。なぜなら、フロントは第一印象を決める重要な役割を担っているからにほかならない。
ここ高山グリーンホテルでの運営変更では、諦観を否定する現実的な動きへと発展した。それが、フロント業務の実態を解析した上で3部門に区分けし、業務所轄を明確にした再編だ。
冒頭に書いたお客さまの選択基準を思い起こしてほしい。旅館では、客室や料理を1つの「宿泊グレード」と捉えて区分けすることができるし、お客さまも比較検討して決めることができる。しかし、1軒の旅館にさまざまなランクがあることから、その1軒に絞り込んだときにのみ選択が可能なグレードにすぎない。地域内の複数、あるいは旅行先の方面全体になると、そうした旅館個別の選択肢は「旅館グレード」としての比較材料にはなりにくい。そのことが「ミシュランのような基準」を、といった話しに飛躍する。
現状でミシュランばりのグレード論をいっても始まらない。基準がないからだ。そうした中で唯一、複数館を比較対照できるものがあるとすれば、フロントだろう。お客さまの選択が高額でも廉価でも、一様にフロントを通過する。価格によって客室や料理のサービスは可変だが、フロントは特別なケースを除けば公平だといえる。
もう1つの理由は、宿泊料金の何パーセントかがフロント回りの運営費になっている以上、料金算定の基準として考慮されなければならない。逆に、フロントサービスの充実が料金と連動する。フロントサービスの充実は集客にも影響してくるのだ。

(つづく)

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