「旅館再創業」 その60
互いに切磋琢磨する方法へ
Press release
  2005.09.24/観光経済新聞

 このところ私は、決して本業をおろそかにしている訳ではないが、本業とは別の用件で繁忙をきわめていた。観光業界、とりわけ観光産業の基幹産業である旅館業界に1つの提案を試みていた。結果は、いずれ公になるものだが、黒子ともいえる私の立場から、現時点で語ることは、いささか面映いものがある。
それはともあれ、漠然とした危機感や、根拠に乏しいバラ色の夢こそ、現実を踏みたがえる大きな要素だと、私は思っている。逆にいえば、事実があっても証拠を突きつけられるまではシラを切り通すのが、人間の悲しい性(さが)なのかもしれない。そこで、危機感と希望を現実の数値に置き換えて提案しているのだ。いわば証拠の開示だ。
証拠とは、事実を認定するときの拠りどころであって、刑事ドラマなどで耳にする物証や状況証拠などの区分があることも、もはや日常語に近いニュアンスで受けとめられている。
高山グリーンホテルで進めている構造改革による第2期の運営変更でも、実は、証拠固めのような手法を使わざるを得なかった。先月の運営変更会議で半ば強引に、ライン外の人間によるチェックと推進方法を取り入れる提案をしたのがそれに当る。
確かに、部署長は日々の業務を精力的にこなしている。しかし、それのみにとらわれていると、構造改革に不可欠な意識改革が後手にまわる。そういう中で構造改革を進めていこうとすると、いろいろな意味で弊害が出てくる。ライン系だけではムリだと思わせる理由がそこにある。また、スキルの問題だけでもない。眠っているスキル、あるいは潜在的な能力を呼び覚まさせる手段も、ときには必要となる。
それに、部門の中だけのことに終始すると、自分の都合を優先させるとはいわないまでも、優位に考えようとする甘えがでる。これが、変えようとする事柄に影響する。
古い諺に「おかめ八目」というのがある。碁盤で対局する2人は、相手の1手にこだわりながら次の妙手を考えようとする。自分の打った手に相手が反応したのだが、それが逆に相手から攻め込まれたような受けとめ方をして、それに反応しようとする。互いにそれを繰り返しているうちに、打ち手は目先の手ばかりになってしまう。ところが、傍から見ていると、「こう来たから、こう返した。となれば、次は…」と、8目も先まで読んでしまう。
仕事でも同じことがいえる。担当部署の当事者よりも、傍観者の方がものごとを客観的にみることができる。いわば、証拠固めともいえる論拠や数値がみえてくる。おまけに、他の部署長などから指摘されると、競争心というか負けたくないといった意識が湧く。すでに4カ月余りが経過した時点では、そうした荒療治が必要になってきていた。
前号でも書いたが、初期段階を現場に委ねた今回のケースは、成功すれば当事者の意識改革が同時進行で達せられる。競争心は互いの切磋琢磨につながる。指摘する側もされる側も、いい意味での緊張関係が生まれるのだ。これが、全社的な意識改革にも発展する。
なにはともあれ、時間に限りがある。9月からスタートさせる予定だった勤活管理(勤務活動管理)システムも、未だに足踏み状態にある。これを始動させるためには、現場が「その気になる」ことが肝心だ。非ライン系からのプッシュ策で、旧弊ともいえる甘えの構造は解消させなければならない。
そのためには、精神論だけではなく現実の業務所轄を、より合理的な形で再編する必要もある。
例えば、フロントでは、業務の3分割を企図している。フロントサービス(仮称)と本来のフロントカウンター業務、それとバックオフィス。バックオフィスは予約部などとも連携する。要は、送迎・駐車場整理から呈茶までを、客数に連動した形で専門部署として機能させる「フロントサービス要員」を配置する再編の必要が生じた。
といって、フロントが肥大化してきた過去の轍を踏むことはできない。業務所轄を再構築し、アイドルタイムの生じない組織運営が課題となった。

(つづく)

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