「旅館再創業」 その59
ライン外の視点で甘え払拭

Press release
  2005.09.17/観光経済新聞

 テレビのスイッチを入れる。画面から「自民300議席」の文字が飛び込んできた。9月11日、午後8時のことだった。政治と宗教は話題にしないのが賢明だと先輩から教えられ、それを守ってきた。だから、総選挙の結果を云々する気持ちは毛頭ない。ただ、現政権の下で「観光立国」が始動し、それが定着しようとしている矢先に、方向転換をするような政権になることは、好ましいものではないと思っていた。この開票速報は、観光にとっていい結果なのだろう。
私は、タバコに火をつけると、テレビを消した。そして再びパソコンのファイルを検索し始めた。目的のファイルに行き当たる前にカーソルが停まった。高山グリーンホテル関係のファイルを納めたフォルダのところだった。
構造改革による高山グリーンホテルの第2期運営変更に着手してから、すでに4カ月余りが経過していた。8月の運営変更会議が終わった後、何気なく口にしたのであろうが、社長の新谷尚樹の言葉が唐突に浮かんできた。
「久々に強引なやり方をみた」というニュアンスのものだった。
確かに、そういわれても仕方がなかった。というよりも、今回の運営変更の進み方は、前段作業のペースが遅すぎる。私の時間感覚に照らせば、すでに具体的な運用シフトを構築して試行段階に入っていなければならない時期にきている。
もちろん、第1期と今回では、手順が違う。初期段階の業務解析を現場に委ねてきた。実効が出るのに、多少の時間がかかっても、しかたのないことだとは分かっている。それに、構造改革による運営変更の効果は、昨年の第1期にかかわった部署では立証されている。いずれは効果が表れるし、相手も承知の上で現場に委ねた以上、私が焦る必要などないのかも知れない。だが、そうとばかりいえない雰囲気の一端が、経営陣からは伝わってくる。私が参加する運営変更会議だけでなく、事前調整の会議を開いて構造改革に取組んでいる。
そうした真剣な取組み姿勢には、ある種の高揚感を感じるし、始めた以上は、できるだけ早く形をみたい・みせてあげたいという気持ちになる。これは、もって生まれた性分で、変えようがない。
そこで、8月の運営変更会議には、ひとつの腹案をもって出席した。新谷尚樹が〈強引〉と称したのは、その腹案を事前の打ち合わせもなしに、いきなり会議の席で話したことにある。
構造改革を進めるには、2つの取組みが欠かせない。1つは、現状の業務をつぶさに解析し、そこに潜む問題点を洗い出す。ISO的にいえばPDCAサイクルを踏まえるような形で、最適な改善案に沿ってシステム設計をする。そこには設計上のハードと、実際の運営時のソフトがある。ハードとソフトを使いこなすのが第1の取組み。
もう1つの取組みが、経営陣と現場の意識改革だ。俗ないい方をすれば、意識改革が不十分だと「仏をつくって魂を入れず」になってしまう。例えば、テレビのスイッチは誰でも入れられるし、それで目的も達せられる。テレビ本体がハードであり、スイッチを入れるのが運用だ。しかし、すでに死語になってしまったが「1億総白痴化」といわれたような弊害が、一方に潜んでいる。
もちろん、構造改革による運営変更では、ハードとソフトだけでも機能は十分に発揮する。ただ、それでは発展性がないし根付かない。意識改革が同時に行われ、さらに継承されなければ、いずれは〈元の木阿弥〉といった危惧もある。
初期段階を現場に委ねた今回のケースは、成功すれば当事者の意識改革が同時進行で達せられるはずだった。だだ、現状の遅延をみる限りでは、シフト運用といったハードづくりだけにこだわって汲々としている。最大の理由は、これまで慣れ親しんできた手法や現場環境が、意識の奥底で「無意識のカセ」になっていることだ。視点を変えれば、甘えの構造でもある。
私は、ライン外の人間によるチェックと推進方法を、半ば強引に取り入れる提案をした。

(つづく)

  質問箱へ