旅館のフロントは、対外的な顔ともいえるカウンター、バックオフィスである事務方、第一印象と最後の好印象アップにつながる送迎など、基本的に3つの業務をこなしている。
これがすべて適正に処理できればいいのだが、多くの場合は「三兎を追って一兎も得ず」になる。業務にかかわるスタッフは、とりわけ大きなクレームなどが出なければ、どれも〈そこそこ〉にこなしているつもりになる。だが、それでは、「普通」の範囲を超えることができない。当然ながらお客さまの評価も「普通」にしかならない。
そこで、全員で三兎を追うのではなく、3つの業務を分割してそれぞれが一兎を確実に追って捕らえることが肝心だ。少数精鋭や適材適所といった常套語を使うまでもなく、目標が明確ならばそれぞれの業務で行うべき方法も工夫できるし、何よりもモチベーションを高めて維持しやすい。
逆に、どんなに力量がある人材を投入しても、人数が増えると烏合の衆化することも否めない。そうした意味で私は、巷間ひろくいわれている「2・6・2の法則」が、ここでも生きていると思う。烏合の衆化すると、上位の「2」が中位の「6」に吸収されてしまい、「8・2」で法則が崩れる。甚だしい場合は、中位の「6」が下位の「2」に同化して「2・8」の非生産的な状況さえ生み出してしまう。
業務を3分割した場合、旅館・ホテルの顔であるカウンター業務については、いわゆる「中抜け勤務」へ向けたシフト体制を構築することが、大きな課題の1つになる。
ところが、ここ高山グリーンホテルは、普通の旅館のように単純な変更では対処できない難しさがある。というのも、昼間の会議や宴会などシティホテル的な顔と、一般的な観光客が温泉を楽しむ旅館の顔といった2つの側面が、どちらも高稼働で回っている。理想的であるがゆえの〈いい意味〉での難しさだ。
だが、そうした難しさも「クロスシフト体制」を組むことで解決の途がある。方法はあるのだが、そのためには3つのフロント業務を明確に区分することから始めなければならない。構造改革でいう業務解析だ。
というのも、昼夜で別の顔もち、昼間でも客足の絶えない高稼働であっても、やはり昼間には閑散の時間帯がある。カウンター部門が中抜け勤務を行った場合、昼間の業務が多発する日には、シフト時間割のなかで午前の終わりを若干後に繰り下げ、午後のスタート時を若干前に繰り上げるなどのクロスシフトを取り入れることで対処できる。
そして、中抜けしたカウンター業務のバックアップは、フロントのバックオフィス部門の事務方がフォローする。このバックオフィスは、従来型でイメージするフロント関連業務だけでなく、予約にかかわる発送や見積などの業務課的な仕事と合体させることで、業務内容の機能的な統廃合をする必要がある。
次ぎが送迎。現状ではメイドなど他部門からヘルプする形になっているが、各現場で労働生産性への意識が高まると、他業務へのヘルプは、できれば出したくないのが本音だろう。ところが全社的に捉えるならば、メイドを送迎に出さないといけない。そうなると、例えば「おもてなし課」といったセクションを創設し、人件費のかけ方とパブリックサービスという全体的な評価のとり方、この両者を考慮する必要がでてくる。
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