JR高山本線の特急・ワイドビューひだ号が高山駅へ到着した。空調の効いた快適な車内からプラットフォームへ一歩降り立つと、熱気が全身を包みこんだ。6月の飛騨高山は、去年の今頃と同じように暑い。〈新緑の5月とは大違いだ〉との思いが頭の片隅を過ぎったのも、やはり去年と同じだった。
だが、そうした皮膚感覚は一瞬で消え去った。代わりに、先月の会議で提起しておいた課題が〈果たして、どこまでまとまっているのか〉が、思念の表に浮かび上がっていた。
ここ高山グリーンホテルで構造改革による運営変更に着手したのは、一昨年の10月だった。それから1年半、第1期といえる期間が今春3月に完了した。そして5月から第2期の運営変更にとりかかっている。
第1期では、対象となったセクションで相応の効果を上げてきた。だが、運営変更が板についたころ、そうした部署の担当者がいみじくもいった。
「対象外になっている部署が、まだ幾つかある。全部署で取組まないと、本当の効果が出ないのではないのですか」と。
私はおもわず、その担当者の顔をまじまじと見てしまったのを記憶している。当初、もっとも手を焼いたセクションの人間であり、そこまで理解が深まっていることに一種の感動さえ覚えたものだ。お客様の移動と連動した接客は、バック部門を含む全社がかかわってこそ完成する。それに気づきはじめたのだ。彼のいった対象外が第2期の運営変更箇所であることは、いうまでもない。
構造改革による運営変更とは、〈運営ありき〉の仕組をつくりあげるリエンジニアリングといっていい。だが、多くの旅館は会社のための〈組織ありき〉の仕組になっている。その弊害は、実際の運営現場にセクショナリズムをもたらしている。端的にいえば、業務がセクションごとに散っているために、仕事の流れが寸断されてしまう。これが非効率の元凶にもなっている。それを整理するだけでもコストの削減効果はてき面に表れてくる。それは、高山グリーンホテルの第1期運営変更でも実証されたと、私は思っている。
そこで、5月からスタートした第2期では、フロント・予約・販売促進(営業)・物産館(売店)の4部門にメスを入れることになった。これによって、経理と保守を除く主要部門の人とモノの流れが、〈本来の運営〉と連動した形に再編されることになる。
こうした構造改革では、始めに取組むべき3段階のプロセスがある。システム設計をするための「調査」と「方向性の構築」だ。喩えるならば、調査は、内部の運営上の問題点を洗い出すことであり、方向性は問題点を改善したときの理想形だ。それらを踏まえたシステム設計によって、理想の形を現場に示しながら運営変更の意義を啓発することになる。
だが、今回はそのプロセスに若干の相違がある。われわれの手で行うべき調査を割愛したのだ。実際には、調査を高山グリーンホテルの幹部に委ねた。
これには、遮二無二「私どもの手で調査を」といえない理由もあった。私なりに社長・新谷尚樹の心中を慮ったのだ。
確かに、第1期では運営コストを削減する一方で、アンケートの評価点を上げるといった当初の目論みで成果は得ている。しかし、それとは別に、昨年秋口から現在まで続いている原油高によるコストアップをはじめ、想定外の事態も発生している。
そうした状況下にあれば、経営者が「まず経営を優先したい」と思うのは当然のことだろう。しかし、構造改革に着手した以上は「ここで一気に推進しなければ、これまでの努力が無に帰してしまう」との思いもあるはずだ。
そのあたりを私は考えた。既定のプロセスに固執するのは難しい。運営変更にかかわるコストは、可能な限り低減するのが賢明だ。そこで3段階プロセスの第1段階である「調査」をホテル側に委ねることにしたのだった。
駅頭での〈どこまで、まとまって…〉は、まさにそのことだった。
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