「旅館再創業」 その49
食中毒の9割は細菌が原因
Press release
  2005.07.02/観光経済新聞

 旅館から食中毒事故を一掃したい。疫学の専門家として純粋に考えると、その思いが強い。ある旅館のオーナーがいった。
「そうなれば先生はメシの食い上げですね」と。
もちろん、現実はそれほど単純でない。食中毒とは、実に厄介なシロモノなのだ。話を分かりやすくするために、専門的な見地から異論が出ることも覚悟のうえで、一般論としての例え話をしてみよう。
食中毒の定義は、平成11年に改正された「食品衛生法施行規則」によれば、飲食に起因するすべての健康障害が「食中毒」とされている。極端な話が、感染症の病原体であるコレラ菌や赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌などによる感染症であっても、飲食物が媒介した発症だと食中毒として扱われる。そうした感染症はともかく、一般的な食中毒を大別すると、次の3つに分類できる。@微生物による食中毒A化学物質による食中毒B自然毒による食中毒――となる。
このうち微生物による食中毒は、サルモネラ属菌や腸炎ビブリオ、ウエルシュ菌、下痢原性大腸菌をはじめとする細菌性食中毒、ノロウイルスやA型肝炎ウイルスほかのウイルス性食中毒、それと原虫や真菌による食中毒など大まかに3分類できる。
また、化学物質による食中毒では、金属の器具や容器から溶け出したスズや銅を原因としたもののほか、ヒスタミンなどによるアレルギー、洗剤や農薬などの混入もある。自然毒による食中毒には、フグ毒や茸・野草類など動物性と植物性がある。
そうした中で圧倒的多数を占めるのが微生物による食中毒で、統計上では9割を占めている。ちょっと乱暴かもしれないが、細菌による食中毒を防止できれば、リスクは大幅に逓減される。それができれば、彼のオーナーがいうように私は〈メシの食い上げ〉だが、現実は違う。
一般の人に専門的な疫学は無用なことかも知れないが、細菌について雑学的に知ってほしいこともある。例えば、「腸内細菌」という言葉を聞いたことがあると思う。人間の口から肛門までの消化管は、長さにしておよそ10m。その中に約3百種類、100兆個ともいわれる腸内細菌がいる。総重量は約1sにおよび、絶えず増殖し排便とともに体外へ出されている。そうした細菌は人間と共生関係にあると考えてもいい。

では、何をいいたいのか。自然界には腸内など比較にならないほど多くの細菌が生きている。人間が生きていくために水を飲み、食物を食べ、空気を吸う以上は、自然界の細菌を絶えず身体の中に取り入れているということ。細菌の毒性やそのときの体調など、要因こそさまざまなだが、絶えず食中毒の危険性に晒されているのは、まぎれもない事実なのだ。そうした細菌がいなければ食中毒は発生しないが、それは非現実的な考えでしかない。
そこで私は、厨房作業に伴う二次汚染や配膳までのタイムラグで生じる細菌の増殖を防ぐための「配膳システム」を考案した。
だが、それでも防げないことがある。食品衛生法の文言どおりならば、購入した食材はすべて安全なわけだが、現実は違う。そして「末端網掛け方式」で一度事故が起これば、旅館は多大の不利益をこうむる。これは何としても防がねばならないのだ。

食品衛生法(抜粋)第4条
 
左に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。但し、一般に人の健康を害う虞がなく 飲食に適すると認められているものは、この限りでない。
二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは附着し、又はこれらの疑いがあるもの。但し人の健康を害う虞がない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない
三 病原微生物により汚染され、又はその疑があり、人の健康を害う虞があるもの。
四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を害う虞があるもの。

(つづく)

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