「旅館再創業」 その38
食の安全へ「ハセップ」活用
Press release
  2005.04.09/観光経済新聞

 食中毒事故へのリスクマネジメントの1つといえるハセップ(HACCP)について、簡単に整理しておく必要があるだろう。HACCPとは、Hazard Analysis Critical Control Pointの頭文字をとったもので、日本語では「危害分析重要管理点」と訳されている。
捉え方としては、前半の「HA」が食品の製造工程(原材料から最終製品に至るまでのすべての工程)で発生する恐れのある微生物汚染や異物混入などの危害を「調査・分析」することであり、後半の「CCP」が製造工程(殺菌工程、包装工程など)で、より安全性が確保された製品を得るために「特に重点的に管理すべきポイント」を意味している。つまり、原材料から最終製品まで一連の工程を管理の対象とし、特に重要な工程の管理を集中的に行うものと理解できる。
こうした教科書的な表現では「分かり難い」という読者もいるだろ。多少の齟齬は容赦願うとして実例をあげてみよう。例えば、旅館の厨房には「整理・整頓・清潔」などの安全標語がかかげられている。従来の食に対する衛生管理の概念では、厨房環境をきれいで清潔にし、厨房スタッフが自身を含めてそれに徹すれば、作った料理を安心してお客さまに提供できると考えてきた。
安全性の確認については、料理の抜取り検査(微生物の培養検査など)を定期的に行う程度だった。もちろん、すべての料理を検査することなどは非現実的な話であり、実際にできるわけもない。そこで、厨房環境の整備や衛生の確保が安全施策の最優先とされてきたわけだ。
しかし、現実には食中毒事故の絶えることがなかったのも事実だ。というのも衛生的な厨房環境の維持は大原則だが、購入した原材料が汚染されていれば、清潔な厨房で調理をしたとしても原因が除去されるわけではない。また、仕込から調理、最終的にお客さまへ提供するまでに生じるタイムラグによって、その間にわずかな菌が膨大な数にまで増殖してしまうこともありえる。原則論だけでは対処できない現実が一方に横たわっていた。
そこでハセップでは、厨房の大原則に加えて原料の入荷から製造・提供までのすべての工程で、あらかじめ危害を予測し、その危害を防止(予防、消滅、許容レベルまでの減少)するための重要管理点を特定して、その重要ポイントを継続的に監視・記録し、異常が認められたらすぐに対策を取って解決する仕組みを示している。
実際のHACCPプランは「7原則・12の手順」で構成されている。
7原則とは、1=危害を分析する、2=重要管理点(CCP)を設定する、3=管理基準を設定する、4=測定方法(モニタリング)を設定する、5=改善措置を設定する、6=検証方法を設定する、7=記録の維持管理。
そして12の手順とは、1=HACCPチームを編成する、2=製品の特徴を確認する、3=製品の使用方法を確認する、4=製造工程一覧図、施設の図面及び標準作業書の作成、5=製造工程一覧図の現場での確認。以下の6〜12は、7原則がそれぞれ順にあてはめられる。
若干つけ加えるならば、ハセップそのものはアメリカで宇宙食の微生物学的な安全性の確保を目的に開発されたもので、いまは食品の衛生管理にかかわるグローバルスタンダードとして世界各国で採用されている。勘違いしてならないのは、食品衛生管理の面から「微生物の数はこれ以下にしなさい」といった数値を決めたものではなく、管理の「手法」として開発されたことが肝心な点だと私は考えている。
さらにいえば、ハセップの仕組みを導入することで、料理の安全性が従来よりも高まのは必定だが、定められた手順や方法が「日常作業の一環」として守られなければ、安全性の確保はできない。当然といえばそれまでだが、決められたルールの遵守は、どんな場合にもの共通する。
そして、経営者と現場が一体になった取組み姿勢が不可欠であることを、蛇足ながら強調しておきたい。
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

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