ファイルを整理していると、出会った経営者の顔が浮かんでくる。そして、私のようなコンサルタントへの接し方も、それぞれ違いがあった。人物に優劣をつけることは僭越であり、決して行ってはならないことだと自戒しているが、仕事を進めて実効を得るためには、接し方を変えなければならない。
そうした意味で捉え直してみると、旅館経営の構造改革を標榜して活動を続けているなかで、3パターン4タイプの経営者に出会ったと思っている。
第1のパターンは、自分自身に確かな経営ノウハウがあり、コンサルの発想から「いいとこ取り」をして活用するタイプ。私の仕事としては成立しにくい面もあるが、逆に啓発される面もあって相互に益するものだと思っている。
第2のパターンは、は補完的に利用するタイプ。個性の強弱はあっても、一定レベルの経営ノウハウもあり、コンサルの提案を戦術レベルで活かしている。したがって、実効も伴う。
第3のタイプは、任せ放しのタイプ。これには、「頼りきり型」と「口出し型」の2タイプがある。前者は戦略レベルの認識があって相応に実効も得られるが、後者はそれが欠けるために戦術レベルで部署ごとに築いてきた成果もフイにしかねない。端的にいえば、任せておきながら自分に興味のある部分だけは口を挟み、戦略構想を無に帰してしまうのが後者だ。経営者には、それなりに「こだわり」があり、それがなければならない。だが、後者の場合は、コンサルを活用できないだけでなく、社内に不協和音を生み出す元凶にもなっている。
結局のところ、私たちコンサルの提案が活かされるか否かは、そうした経営者の資質ともいうべき部分に大きく作用される。それと、両者の波長が合致してこそ、いい成果が得られるとも思う。
これに対してある旅館経営者がいった。
「コンサルを受けても必ずそのとおりに成功するとは限らない」といい、さらに「実際の結論を示さずに〈これと、これを行う〉といった示し方しかしない。これでは、うまくいかなくて当たり前だ」
確かに、こうした示唆のほかにも、コンサル側に活かされるか否かの要素が多分にある。実効が伴わないのを、経営者の「資質の問題」といって責任回避をするつもりは毛頭ない。そこで私は、従来のコンサルとは異なる手法を用いている。それは、実効を目的化した「実務コンサル」と、私自身は呼んでいる。
あるクライアントで実際に遭遇した話がある。そこでは、別のコンサルタントと私の指摘したことが「ほとんど同じ」だといわれた。確かに、コンサルタントが知恵を出して考えることは、大同小異かもしれない。問題は「WHAT」でとめておくか、「HOW」まで突っ込むかの違いだ。
私は、考え方や仕組みを示すだけでなく、実際の現場で動き(作業)そのものを自ら実践して示すところまでやる。この姿勢が肝心だと思っているのだが、一般的なコンサルの領域に照らせば異論があるのも承知している。
もう少し付け加えるならば、前述の「成功するとは限らない」と指摘した経営者やクライアントが抱いた「同じ」という感想は、喩えてみれば「国語」の授業のようなものだった。国語なら言葉の解釈ひとつで、どのような評価でも可能だし、結果がでなければ「方法がまずい」「現場の対応が難しい」と結論づけることもできる。
これに対して「技師」が前身の私は、「数学」として結論を捉えてきた。「1+1」の答えは「2」以外にはない。ならば、最初から「2」を実効目的に据えてすべてを組み立てる必要がある。それが「実務コンサル」のゆえんでもある。
ひるがえって、旅館の実態は、名称こそ「株式会社○○観光ホテル」だが、経営手法は旧態然としたもので「これが当社のやり方」という。しかし、そこに外部のチェックが入った形跡はなく、それ自体がオーソライズされたものではない。私は、数学的発想でそれを裏打ちし、自信をもてるものにしてほしいと願っている。(この項続く)
(企画設計・松本正憲)
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