「旅館再創業」 その32
半年間経過で成果を検証G
Press release
  2005.02.26/観光経済新聞

 冬の高山は、寒さが厳しい。私が10回目の運営変更会議に出席した1月下旬のその日も、空は雪雲に覆われて、積雪も随所に見られた。夕方のニュースでは、昼間の気温が摂氏4度に満たなかったという。だが、熱気を帯びた会議の場は、まったく別世界の様相を呈していた。
ここ高山グリーンホテルでの構造改革を振り返ったとき、スチュワードの運営変更をはじめ、厨房の統合、宴会部と食堂部の合体した新組織など、これまでの段階は、改革に必要なパーツをつくってきたともいえる。そうした中で年初から新たな取組みがスタートしている。それが労働時間などににからむマネジメントシステムの構築と稼動だった。
だが、昨年12月中旬に操作指導の全体説明を行い、後は実際の運営にすんなり移行できると踏んでいたものの、これが思わぬ事態に陥っていた。というのも、12月下旬の第9回運営変更会議の時点で、未だに運用の目処がたっていないばかりか、それから1カ月を経た今回でも、決して満足のいくレベルに到達していない。これには参った。
原因というより遠因は、おそらくこのマネジメントシステムに対する担当者の必然性の認識不足だと、私は思う。というのも、問題意識をもって得た知識は一生忘れないものだが、必要と思わないときは、右から左へ忘れてしまう。悲しいかな、それが人間の性といったものだ。もちろん、それでは済まされないのが企業経営なのだ。
労働時間管理のシステム化は、視点を換えるとシフト管理を本格的に始めることを意味している。シフト管理は、ピーク時を基点にした人の動かし方であり、それによって作業のムリ・ムラ・ムダを排除することにつながる。現時点で構造改革が終了したわけではないが、それでも人の動かし方を変えただけで、コスト削減など数字に表れた効果を確認できている。それをさらに高次化するのが、労働時間管理のシステムだ。
ひるがえって従来の管理実態をみると、一口でいえば「総労働時間」のみで、各業務の労働時間は管理されていなかった。例えば、宴会業務にどれほどかかっているかなどの「ミクロ解析」がなされていなかった。そうなると、構造改革で欠かせない「可変人件費」を実現できなくなる。つまり、「備品セッティング」「料理セッティング」「宴会」「片付け」など個別の業務にどれだけの時間を費やしたが把握できなければ、運営変更をしても全体としてのバランスを図ることができない。シビアな意味での業績評価ができないのに等しい。
いい換えれば、労働時間のミクロ解析を行うことで、はじめて部門の業績評価が可能となる。野球の戦力解析ではないが、ミクロ解析を行うことで「バッティングのここが悪い」「走塁時の問題点はここ」「捕球ではここに問題がある」といった個別の改善点を見出し、走攻守のバランスをレベルアップすることができるのに似ている。
こうした管理が実現すると、各カンパニーのプレジデント(カンパニー制導入前の部門長等)は、アンケート点数や運営費にシビアにならざるを得なくなる。一方で、査定評価について一定の裁量権も付与され、責任と権限の明確化へ発展する余地も広がる。
いずれにしても宿泊業など売上に対して人件費比率の高い業態では、この視点が欠かせない。人件費率を数%下げるだけで利益が出るのは周知の事実だ。そうした労働管理と業績管理の完成形を目指して新システムがスタートした。
また、効率の面から捉えてみると、例えば給与計算ひとつにしても、各部門からデータを収集して入力するだけでなく、前段として各部門は一人一人の労働時間の積算をするなど、多大な時間と労力を要していた。さらに、シフト運営の導入で計算は煩雑になった。しかし、ルコス(LCOS)によるシフト管理が行われている状況下では、自動的に労働時間の実績が算定され、そのまま給与計算にデータがコンバートされる。システム面で整備が進んだ今、必要性の理解が急務なのは、まさにいわずもがな、なのだが… 続く
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

  質問箱へ