「旅館再創業」 その28
半年間経過で成果を検証C
Press release
  2005.01.15/観光経済新聞

 厨房での構造改革の手法としては、まず「盛付」の仕組みから入る。構造改革流にいえば「集中盛付」だ。これは、料理提供の全体像を捉えて、他の部署との整合を図る意味で欠かせない。その意味では、本来ならばこれと並行して「集中仕込み」にも着手するのだが、ここ高山グリーンホテルでは集中盛付だけでスタートした。
この第一段階で、記憶に残るひと悶着があった。
これまで食器準備は、厨房要員が行ってきた。今回の運営変更では、それをスチュワードに移管した。理由は簡単だ。厨房要員は「板前」の名に代表される料理の専門職であり、人件費も相応のものを必要とする。そうした専門職社員にパートでも可能な食器準備をさせる愚はない。私にいわせれば、食器準備は「地方大会レベル」の業務なのだ。そのためにLCOS(ローコストオペレーションシステム)を導入し、このシステムがパートでも可能な作業環境を整えることになる。
食器準備の流れをマニュアル的にみると、レギュラーメニューへの対応、大型宴会などで同じ食器が員数不足になった場合の緊急対応、さらに地元リピーターの宴会も多いことから、その都度、食器を変える必要性もある。こうした3つの要素を加味しなければならないが、いずれについても調理長が使用する食器を決定する。その決定されたデータをコンピュータにインプットすると、あとはLCOSの出番となる。
誤解してならないことは、決定は厨房の最高責任者である調理長が行う作業であり、メニューにあわせてコンピュータが単純決定するものではない。俗ないい方をすれば、コンピュータを使うだけであって、決してコンピュータに人間が使われる構図ではない。LCOSは、調理長の決定にしたがって使う食器のリストや数量、作業現場で使う指示札をアウトプットするのに過ぎない。そのアウトプットされたとおりに現場作業を進めるだけのことだ。これならば、作業をパート化できるのも自明の理といっていい。
ところが、「コンピュータ化」と聞いただけで、人間が「コンピュータの指示どおりに動くもの」といった錯覚から、実際を理解する前に拒否反応をしてしまうケースも珍しくない。さらにいえば、食器を準備する作業は、メニューを読みとって最適なものを選択する高度な作業と思われてきた

ところが、高度な作業は調理長レベルのものであって、実際の作業者に専門性は不要だ。それを「ブラックボックス」にみたてて、一般の厨房要員が「他者にはできない」としてきたのが、これまでの悪弊だったと私はみている。
そうした発想のもとで、ここ高山グリーンホテルでの「集中盛付」が稼動し始めた。ところが、運営変更からしばらく経っても、食器準備の人員が計画どおりに進んでいない。原因は、なぜか。ISOでいうトレーサビリティではないが、流れを遡って原因解明に努めた。そして、スチュワードの責任者に行き着き、実態の説明を求めた。
私は、彼に詰問した。
「食器準備に時間がかかり過ぎている。しかも、投入される人員が多い。なぜこうした事態になっているのか」
「……」
ところが、彼の答えは出てこない。
「正直にいってほしい」
と、重ねていった後、やおら重い口を開き「こういうことをいって、いいのか悪いのか…」と前置きして彼は語りはじめた。
「調理長が決めた食器を、各持ち場のセクション長が変えてしまう」
これには驚いた。だが、ブラックボックス化していた従来形態ならば、そうした事態が発生することも、あながち想像に難しいことではない。しかし、調理長の決定に基づくLCOSの運営下で、そうしたルール違反は許されない。なによりも、調理長の命令に対する違反であり造反に等しい

調理長が怒って当然のことだった。私は、役員同席の運営会議でこの点の改善を求めた。
こうしたひと悶着があった後、現場は一新され計画どおりの運営変更が軌道に乗った。 
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

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