「旅館再創業」 その24
全社で取組み意識が台頭
Press release
  2004.11.27/観光経済新聞

 11月中旬の飛騨高山は、深まり行く秋とともに冬の訪れを感じさせる。高山グリーンホテル天領閣から望む北アルプスの山々も、夏場の群青色から白い冠雪へと、天と地の境を衣替えさせていた。私は、市内の町並みと背後に広がる雄大なパノラマを眺めながら、時間の経過を悟った。
ここ高山グリーンホテルでの構造改革による運営変更は、今年4月にスタートした。そのときの山々は、今日のそれよりも雪の白さが際立っていた。白さがまばらになって山の襞が見え始めたころ、雪解け水で川が溢れるように、館内では構造改革の奔流が幾つかの現場部署を翻弄しはじめた。生みの苦しみにも喩えられるが、それを越えなければ成果は得られない。一つの道程といえる。
この日の会議は、午前中の役員会のあと、午後は役員のほかに関連するセクション長を加えた「全体会議」に移った。前回の会議から3週間ほどが経過しており、その間の進捗状況を確認し、今後の進行計画を周知する。こうした会議もすでに8回目を数える。当初に比べれば、会議の流れはスムースになったかもしれないが、逆に緊張感の薄らいできた一面を、わずかだが感じることがある。
例えば、会議で決めた事項が実行されていない。これも、取組み姿勢の弛緩と無縁ではない。運営変更の意味あいがわからずに規定の作業を「できていなかった」のが当初であり、現在は意味や目的が理解できたにもかかわらず「やっていない」ことがある。
そうした場合の理由は幾つかある。一つは作業担当者の力量が問われるケースだ。会議では、何人かの社員の名が実際にあがってきた。「今のセクションに長くいたから、別の部署に移してもね…」「でも、それをさせなければ作業効率は改善できない」「仕事をこなせないなら、取るべき手段は限られる」と侃々諤々。議論は沸騰する。
作業者の力量云々よりも始末に悪いのが、旧に復すことだ。運営変更を進めるうえで従前の方法を「やり易い」と錯覚している現場の意識改革が、実は一番厄介でもある。これには、作業現場での馴れ合いと身についた非効率な動作、それに端を発したシステム無視がからみあっている。
先月の会議でも問題になった飲材補充などは、3週間を経た現在もあるべき姿には至っていない。「では、一体どうやって補充に回っているの」と、いわずもがなの言葉がつい口に出てしまう。真相を突き詰めていくと情報伝達の不備をはじめ、部署間の問題点も浮かび上がってくる。
ただ、高山グランドホテルでのそうした齟齬は、他館での運営変更に比べると質的な面で〈軽微〉といっていいのかも知れない。会議の途中で業を煮やした社長の新谷尚樹は、無言のまま席を立つとホワイトボードに向った。「この部分に問題があるのなら、直すしかないだろう」と問題箇所を指摘する。その姿勢が運営変更を牽引する大きな要素の一つになっている。
後刻談ではあるが、運営変更部署に所属する責任者の一人が、戯言めかしてつぶやいた。「私どもは構造改革を学んでいる生徒として優秀な方じゃないですか」と。それは、社長の取組み姿勢が社員に伝播して一丸で〈やる気をみせている〉といたかったようだ。「でも、対象外になっている部署が、まだ幾つかある。全部署で取組まないと、本当の効果が出ないのではないのですか」と続けた。お客様の移動と連動した接客は、バック部門を含む全社がかかわる。これに気づきはじめたのだ。
(企画設計・松本正憲=文中敬称略)

(つづく)

  質問箱へ