「旅館再創業」 その23
後方運営「隷属」にあらず
Press release
  2004.11.20/観光経済新聞

 構造改革は、仕事の仕組みを「より合理的なもの」へ組み替えることであり、サービスや料理など仕事をとおして生産される内容を基本的に変えるわけではない。ただ、同じものを生産するにしても、そこに「ムリ・ムラ・ムダ」が含まれていればコストは肥大する。黒字を食い潰して赤字化を促進するのが、それらの「3ム」にほかならない。逆に解消すればコスト削減を可能とし、「ムラ」を排除した均質化と「ムリ・ムダ」を省いた余力によって、クオリティーを高める相乗効果もある。
ここ高山グリーンホテルでの半年間の経緯は、コスト削減とクオリティーアップの両面で、着実に成果をあげつつある。もちろん、経営体質そのものが、より高い相乗効果を発揮しやすい健全なものであったことも事実だ。私は、第7回運営変更議事録を読み返しながら、構造改革による運営変更の効果を反芻した。
議事録は「平成16年上期6ヶ月間の運営変更成果」と記されている。最初の項目では「宴会サービス、食堂サービス、調理部は成果が上がっているが、スチュワードは数字面では悪化している」とあり、次項目で上半期の社内アンケート点数として「平成15年度85・5点、平成16年度87・8点」とある。クオリティー評価ともいえるアンケートの顧客満足度は、前年同期より2・3ポイント上昇したことが報告されていた
報告書には「スチュワードは数字面では悪化」とあったが、改善途上ではやむを得ない一面も否めない。変更された業務内容の「しわ寄せ」ともいえるし、あるいは従前の業務内容を「ひきずっている」ともいえる。むしろ、全社的な運営変更が未完成な段階であるがゆえの「歪み」を象徴していた。
このスチュワードをそのまま日本語に訳せば「乗客係・執事・世話役」などで、旅館の業務に置き換えると、いわば体のいい「なんでも屋」といったニュアンスが強い。しかし、逆に発想すれば歌舞伎の黒子や裏方のように、芝居興行に欠かせない重要な役割を、各部門に対して担っている。運営変更の初期段階でスチュワードに注目したのは、そうした館内での位置付けによるものだった。
私は持論として、旅館・ホテルには「3タイプのスター」が欠かせないと考えている。フロント・パブリックを含むサービス面の「接客」に関連する人材、いい料理をつくる「厨房」、そして事務・管理系を含むパート化したバック部門を管理する「オペレーション」のスターだ。
このうち接客と厨房のスター性は、多くの旅館にみることができる。だが、バックヤードで館内運営を総合的にオペレーションするスタッフのスター性は、大半で見落とされている。
劇場の一場面が私の脳裏をよぎった。華やかな舞台を劇的に変化させる回り舞台やせりだし、どんでん返し、それに合わせて登場する役者に観客は喝采を送る。この時、奈落で舞台装置を動かしている裏方への関心は、役者にも観客にもない。旅館の三要素である「施設・料理・サービス」を表舞台に喩えれば、役者だけで舞台がなりたっているような錯覚に、興業主も役者も陥っている。
私は議事録に目を戻しながら〈総合的な館内運営〉の役割をイメージし直してみた。そこに浮かんでくるイメージは、やはり「3大スター」の一翼である。これは間違いない。運営変更によるシステムもその方向で設計してある。だが、実際は当初にイメージした役割が、これまでのところ十分に演じきられていない。
原因はスチュワードの職務を、従前の「なんでも屋」的な意識から自他共に脱していないところにあった。そこまで考え進んだときに「隷属」の一語が浮かんできた。これではスターにはなれない。
構造改革の推進では、クリアしなければならない関門が幾つかある。俗に「仏を作って魂をいれず」という。私の職務は、運営システムの状況をジャッジメントし、経営陣に協力しながら設計をし直すこと。いわば仏作りの側だ魂を入れるのは現場であり、そこでの意識改革が「関門中の関門」であることを、この経緯が示していた。
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

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