「旅館再創業」 その21
運営改善から半年が経過
Press release
  2004.11.06/観光経済新聞

 手帳の出張スケジュール欄を眺めて、思わずため息が出た。いつもながらのタイトな行動予定で埋まっている。予定がどれほど過密でも仕事を厭う気持ちはないのだが、先週から今週にかけては様相が違っていた。変更が相次ぎ、塗りつぶしと書き込みで見るも無残な状態になっている。
それは、10月20日から始まっていた。台風23号の上陸で予定を繰り下げたものの、21日も航空機材の都合で欠航が相次ぎ、大幅に狂ってしまった。おまけに、何とか出向いた出張先から次への移動では、搭乗機のエンジンが鳥を吸い込んだとかで、またまた遅延を余儀なくされた。
そして23日。新潟県の直江津を午後遅く発って、6時過ぎに戸倉上山田温泉へ到着した。この日は夜間の料理運営指導を予定していたのだが、旅館に着いてみると、いつもと雰囲気が違う。そう思っている間に、目まいにも似た浮遊感に襲われた。だが、目まいではなかった。新潟県中越地震の余震だった。余震は、さらに続いた。結果、予定していた運営指導は翌日に延ばすことになった。

それにしても、今年の日本列島は何かに祟られているような気がしてくる。記録的な猛暑や相次ぐ台風の上陸。そして地震。どれも大きな災禍を残しており、被災された方々の苦労や苦渋は想像を絶したものだろう。心中、お見舞いを申し上げるだけでなく、それに比べれば私の予定変更などは〈とるに足りないもの〉と諦めるしかなかった。
地震から2日が過ぎた月曜日。一旦は福岡へ戻るつもりだったが、時間の余裕がなくなってしまい長野から高山に移動した。ここ高山グリーンホテルで、月に1回行われる定期会議が待っていたのだ。
その会議は昨日・今日と予定通りに終わり、私はいつものようにラウンジで一服つけ、紫煙の味を楽しんだ。朝の見送りも一段落したこの時間帯は、前夜の賑わいと一変した静寂感がある。一種の落差ともいっていそれは、旅館の繁閑度合いによっても違いがある。従業員の小さな仕草一つにしても、一仕事を終えた後の弛緩と、暇を持て余して習慣化したダラダラ気分とでは、動きの〈キレ〉が違う。少なくとも私はそう思っているし、お客様の見る目も同じはずだ。
定期会議は、今回が7回目だった。構造改革による運営変更に着手して半年が経過していた。その間『観光経済新聞』に座談会や連載記事が掲載されたあと、各地の旅館から見学の要請があった。これに対して社長の新谷尚樹は、首をタテに振らなかった。まだ、他社に開示する段階ではないと受けとめていたようだ。
その気持ちは私にも理解できた。定期会議の3〜5回目ごろだった。食器洗い場の対応に業をにやした私は、自身で作業の実地指導をした。その折に現場の責任者が他出してしまった。取締役管理本部長の内木真一は「こんな大事ときに…問題意識がない」と嘆息したのを覚えている。
だが、その現場も大きく変わった。会議での報告を聞いていると、それが遠い昔のできごとのようにも思えてくる。
肝心なのは問題意識だと私は思っている。一つの作業に対して、なぜそれを行うのかと「本質」を考え、理解をしたうえで推進しなければならない。それと、運営の仕組みがマッチングしなければ意味がない。
洗い場にしても、運営変更された仕組みの理解とルールに則った整理が身に付いた後は、一連の作業が一気に改善へ向った。今回の件では、それを改めて実感した。いま、担当者の所作、あるいは整然とした作業環境や仕事のフォーメーションに、かつての雑然とした姿を見ることはできない。いい換えれば、作業現場を開示できるだけの改善が進んだわけだ。
半年間の成果は、経営数値にも表れていることが会議で報告された。スチュワード部門を除く各部門で千万円単位のコストダウンが実現した。コストは削減したが、逆にお客様の評価点は上がるという理想の形で進んでいる。だがこれは、トータルで仕上げる段階に入ったのを意味するだけで、これからが正念場だと私は考えている。
(企画設計・松本正憲=文中敬称略)

(つづく)

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