送られてきた1通のFAXを前に、私は腕組みを強いられていた。
現在の案件では、目論みどおりの運営改善が進んでいる。第2段階の営業改善は、着手したばかりだ。数日前の営業会議で一定の方向性を決め、当面の具体的な施策も打ち出した。
ところが、送られてきたFAXでは、当面の施策が白紙に戻っている。理由の詮索は無意味だと思う一方で、そんな私の脳裏を「運営改善と営業改善の狭間」という言葉だけが、しきりに徘徊する。それは、ある種のジレンマでもあった。
今回の経営改革では、館内運営と営業促進の両輪が相乗的に機能しなければ、最終的な目標が達成できたとはいえない。端的にいえることは、館内オペレーションにかかわるコストを削減しても、営業の下げ止まりを果たさなければ削減効果は相殺されてしまう。これではプロフィットの創出につながらない。最大限に甘く評価しても、「コストが削減できてサービスが維持できた」というのにとどまる。
そのことは、ヘビー級のボクサーが減量をしてライト級になったのに等しい。減量をしても身長や体格などが変るわけではない。体躯はそのままで、体重だけ軽くするのは不自然だし、パンチ力などその選手が本来もっていた魅力も薄れてしまうはず。
旅館に置き換えれば、不動産業のハードはそのままで、運営オペレーションと営業実績がライト化したのと変わりない。やはり不自然だし利益もライト化するのは必定だ。極論すれば、現状の運営を維持して、すべてを先送りしただけといえる。これでは健全経営といえないし、将来のビジョンもみえてこない。
構造改革による経営改革では、プロセスの第一歩として、館内運営の改善を営業促進につなげるシナジー効果が果たされなければならない。私は、簡単なフローを書いてみた。
バブル期に成り立っていた従来バランス(図・最上段)が崩れて売上が減少した場合、経営は苦しくなる。これを運営改革でライト化バランスに導くことは可能だ。少なくとも、構造的には従来バランスに近づくことから「とりあえず胸を撫ぜおろす」といった状況が生まれる。だが、これはプロセスの第1段階でしかない。もうしばらくは苦しさに耐えて、サービスの向上や料理の原価率アップなどによって「いい旅館だ」といわれる評価アップに努めなくてはならない。
そこで、平日特割などの施策を展開し、営業の下げ止まりを目指す。売上増加に転じるこの時点が第2段階といえる。難しいのは、第1段階からこの第2段階への展開なのだ。
例えば、千人の不足が見込まれるときに、平日特割で2千人の集客を目指す。そのためには、どこへ向けて販促を展開するかが課題になる。同時にそれは、当事者旅館の日頃の力量が問われる課題でもある。
送られてきたFAXは、経営組織の現状を物語っていた。平日特割1つにしても、真意の理解が不十分なのだ。ただ、この部分に関知すべきか否か。ジレンマはそこにあった。
(企画設計・松本正憲)
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