私は、役員会での人事考課にかかわる検討内容を振り返っていた。
「消化不良気味だ」
と、思った。
人事考課では、等級給与制と技術グレードのポイント制を併用するのがベストだ。等級給与制はザックリと全体を把握するものなのに対して、技術グレード制はグレードが何ポイント上がれば、給与にも相応に反映させる合法的でキメ細かなものだ。
結果として、単に社歴が長いというだけで技術グレードが低ければ、当然ながら給与は引き下げられる
このシビアな取組みが経営改善では欠かせない。
ただ、経営改善では併用が理想形であっても、短期間のプロセスで両者を導入すると消化不良を起こす懸念もある。とりわけ技術グレードの設定項目については難しい。ややもすれば、前提となる業務のレベルによる区分が見失われてしまう。業務レベルは地方大会から全国大会まで、大別すれば3段階が考えられるのだが、それらを無視した従来の流れに拘泥し、不用意に煩雑化してしまう。
これが全体を俯瞰する制度本来の姿勢を見失わせてしまう。いわゆるビジネスヒエラルキーが忘れられ、経営ビジョンや戦略と日常業務の遂行を同じレベルで議論することになる。経営側がそうした状況に陥ると合法性がなくなる。制度を導入しても、その時点から形骸化が始まる。それが消化不良なのだ。
今回の経営改善には、2つの基本的な狙いがある。1つは、内部の運営改革で「ムリ・ムラ・ムダ」を排除する仕組みをつくり上げること。これによってコストの削減が図られるわけだ。といって、単にコストを削減するだけだと、従来の「コスト削減=サービス低下」といったリストラ構図に陥ってしまう。それでは悪循環のループにはまり込んでしまう。肝心なのは、地方大会から全国大会までの業務レベルに照らしながら、社員とパートの使い分けを明確に行うことにある。
そうやって実現したコスト削減は、利益を増大させることにつながる一方で、一部を別の形でサービス向上へ投資することを可能とする。コストは削減しても、サービスの維持・向上ができることを意味しているのだ。この点が構造改革の手法と従来のリストラとは、根本的に違っている。逆にいえば、それが理解できていないと単なるコスト削減に終わってしまう。
実際の取組みでは、すでに6千万円程度の削減効果は出ている。それを1億円にすることは可能だ。しかし、現時点でそれを利益の増大という意味だけで捉えることはできない。
いい換えれば、現状の削減効果こそ「次のジャンプ」へ向けた投資資金と考える必要がある。大きくジャンプをするには、一旦は身をたわめて反発力を蓄えなければならない。削減効果が出始めたときこそ、新しいお客様を得る努力の必要な「雌伏の時」だと私は思っている。
新しいお客様を得ることは、内部の運営改革と対をなす営業改革に他ならない。基本的な狙いの2つ目がそこにある。
営業会議で興味深い話が出てきた。それは「特割」にかかわるものだった。
特割そのものは、価格破壊以降の廉価施策と外見的には類似してみられる。しかし、根本的な発想が違う。端的にいえば、不動産業の視点に立脚したのが特割だ。従来の安売りは、不動産業と料飲業がボーダレスな中での価格施策でしかなかった。そうした従来の安売施策は、別の視点で捉えると「利益」の概念が欠如しているといえる。利益の出ない事業など何のための経営かわからない。
営業会議で出た話の内容は、「特割といわれてお客様をつれて来てみたら、サービス内容が想像以上にいい。次は個人向けのツアーを組む」といった評価を、旅行業者から得たというものだった。
してやったりだ。
運営改革でコストは削減しているが、サービスは低下どころか逆に向上し、評価アップを実際に手中にしたのだ。これが身をたわめるプロセスの1つでもある。これを次のジャンプにつなげなければならない。
(企画設計・松本正憲)
|