「旅館再創業」 その12
モノの「置き場と置き方」
Press release
  2004.08.28/観光経済新聞

 食器洗い場の運営指導を行った翌日は、業績管理会議が開かれた。構造改革をスタートさせたあと、進捗状況を確認する毎月1回の会議として行われている。幹部によるこうした確認・検証・解析は、構造改革で不可欠な作業だった。
これまでの短期間で、効果が顕在化してきたものもある。人件費の面では、送迎などフロント回りのサービス向上面で人員を投入したが、そのために全体の人数が増えたわけではない。お客様の評価アップを考慮して相対的にみれば、すでに数%程度の低減効果は出ているはずだった。料理の配膳も非常にスムースになってきた。
当面の問題は、バンケット部の下膳分類がセオリーどおりに運ばないことと、その延長線上にあるスチュワードの食器洗浄体制にある。とりわけスチュワードの業務は、単なる接客だけではなく、館内運営全般にかかわる高いスキルが求められる業務に変ってきた。これを従来どおりの手法で対応しようとすれば、当然ながらムリが生じる。責任者のスキル不足によるムリは単に個人の問題ではない。構造改革全体の足を引っ張ることになる。
構造改革は、いわゆるリストラとは違う。ただ、変ろうとしている会社についていけない社員にまで、目は向けない。ややもすれば情に流され、結果として足を引っ張られてきた旧弊は認めないだけだ。
ここ高山グリーンホテルの経営体質に旧弊はない。だが、社員の一部には自分の都合で働こうとする人間もいる。社長の新谷尚樹はいった。
「30年間に培ってきたことを、あまり性急に変えようとして失敗すれば元の木阿弥だ。それに、お客さまに笑顔で接しようとしているのに、社員の顔から笑顔が消えたらどうにもならない。料理もあまり合理化して工場のようになってしまえば、お客様へのもてなしの心に心配が残る」と。
旧弊ではなく、「理念」として拝聴すべきものだ。その社長の心を、社員がどこまで理解しているのかには、疑問の余地もある。

経営者は先を絶えず読んでいる。消費者のニーズにも敏感に反応しようとする。「ニーズの様変わりが早い」ということに異論を挟む経営者はいない。だから、会社は時代に合わせて変ろうとする。変ろうとしたときには、従来の方法も改めるべきは改めるのが、当然のセオリーだ。
そこに構造改革のなすべき役割がある。高山グリーンホテルとの契約内容からすると若干、僭越かもしれないが、私は業績管理会議で、昨日の顛末と反省点を語った。結果は担当者のスキル不足を指摘することにもなってしまったようだ。
食器洗い場に限ったことではないが、作業を合理的に進めるには、3つの要素を忘れてならない。
1・モノの置き場
2・置き場の確定
3・モノの流通
それぞれの器具には使用目的がある。いま、その目的で必要なものは手元に置き、必要でないものは整理をして所定の場所に置いておく。「要・不要」を判断する普通のセンスといっていいのだが、そこにセンスの悪い人間が紛れ込むと、「悪貨が良貨を駆逐する」ではないが、全体の整合が失われてしまう。
おまけに、錯覚も加わっている。以前からの慣れを「やりやすい方法」と思い込んでいる。ところが、そこには余分の動き、時間のロスなどが多分に含まれている。現場だけの視点だとこれには気づかない。
例えば駐車場。車の少なかった昔は、好き勝手に停めても、動き出す時に問題はなかった。ところが今ではルールどおりに停めておかないと自分も他人も身動きできなくなってしまう。洗い場のコンテナや台車も同じこと。今のような駐車場の常識も、当初からうまくいったわけではないが、皆が理解すればできる。
スペースの兼ね合いから、その場の状況に最もふさわしい形をつくり出すのが、われわれの行うシステム設計であり、使い方を教えるのが運営指導。駐車の仕方と同じで難しくはない。だから、指導中に担当者は、マイクロバスの送迎の方がより重要、と消えてしまったのか……  
(企画設計・松本正憲)

(つづく)

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