「旅館再創業」 その10
スキル高次化と意識付け
Press release
  2004.08.14/観光経済新聞

 会社幹部との面談を終えた私は、ロビーで紫煙をくゆらせていた。開放感のある空間と中庭の緑は、時間さえゆっくり流れているような心地よい寛ぎ感を与えてくれる。2本目の煙草に火をつけた。会議室での喫煙は例外的に認めてもらっているのだが、何がしかのためらいはある。
私は、昨日今日を振り返っていた。4月にスタートした高山グリーンホテルでの構造改革は、一部を除けば順調に推移している。社員・パートの頭数が変わったわけではないのに、送迎などサービス部門の強化が進み、お客様の反応が数値的にも良化傾向にあること示している。当面の問題は食器洗浄を含むスチュワードの対応だった

洗い場で生じている現在の混乱は、多くは意識付けに起因している。構造改革によって作業の流れが変わり、現場責任者の役割も変ってくる。いわばスキルの高次化が求められる。
意識付けについて思うことがある。構造改革を打診してくる旅館は、いわば、にっちもさっちも立ち行かなくなったケースが多い。打つ手がなくなった時の「切り札」のように思われている節がある。もちろんそれは否定しないし、実際に短期間で再創業の効果はあげている。だが、そうなる前に着手した方が得るものは大きい。
その意味で高山グリーンホテルの経営陣には「先見の明」を感じる。代わりに私への要求も当初から厳しいものがあった。妙ないい方だが、その厳しさは痛快といってもいい。「とにかく何とか」ではなく「これを、こうしたい」と明確な方向性に基づいている。
かつて新聞記者から聞いたことがある。「どうですか」と聞くのは最低のインタビューだと。「何について」の主語を欠くと、抽象的な答えか一般論しか聞き出せないそうだ。一般論では記事にならない。構造改革も同じで、一般的な抽象論では実効が得られない。

社長の新谷尚樹は、ズバリいった。「理論は素晴らしいのだが、実践の段になると、頭で考えていたことと現場の作業が結構かけ離れることがあった」と。そこには、従来のコンサルタントに対する本音の要求が含まれている。そして「コンサル満足をさせてほしい」と付け加えた。
その気持ちは、日頃から「CS=顧客満足」に細心を払っている側の要求として、痛いほどわかる。だから私は「WHAT」ではなく「HOW」を売りに構造改革にあたってきた。実現できない理想の理論をいうつもりなど毛頭ない。
肝心なことは、作業をするのが「ロボットではなく人間」だということ。そのためには、仕組みだけではなく、それをさせるための意識付けがポイントになる。いわば本人をその気にさせる「気づき」へ導くことにある。それには仕組みとポイント、そしてその旅館の実情に合わせた組み立て方が必要であり、そのどれか一つが不適切であっても成果は得られない。その見極め方が、ノウハウだと思っている
今回は時間がない。3週間後に、洗い場作業の実際を示すことにした。 
(企画設計・松本正憲 =文中敬称略)

(つづく)

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